医療技術学部
Department of Orthoptics and Visual Sciences 視機能科学科
ヒトが対象物を見るためには、眼球の中心窩という部分でモノを捉える眼球運動が重要です。そこで私は「スポーツ選手の眼球運動が正確なのか」という疑問に対し、視線解析を用いた装置を活用して研究しています。スポーツと視覚の関係については評価法や効果判定が統一されておらず、曖昧な評価が多いのが現状です。まずは、スポーツと視機能の関係の科学的な分析を目指し、将来的には、アスリートのパフォーマンス向上につなげていきたいと考えています。本学科には、最新の眼科医療機器が整備され、視線解析を応用した研究機器も導入されています。研究を進めるのにこれ以上の環境はありません。
眼科では、片方の眼を隠した状態で眼の位置がどの程度ずれるのか評価することが重要です。私たちは隠した目の視線を解析できる特殊な装置を用いて、眼位の評価に取り組んでいます。この手法を使うと従来は観察できなかった隠された眼の偏位過程が可視化され、これまで検査者の技量に依存していた眼位検査も、定量的な評価が可能となります。特に小児の斜視の早期発見や弱視予防に役立つと期待しています。実際の検査に携わった経験は、視能訓練士として働く将来にも活きるはずです。
眼科医療技術の急速な発展に伴い、視能訓練士教育も時代に合わせたスタイルに変化すべきです。しかし、眼科検査・訓練に関する学生教育に関連した研究は多くありません。そこで私は、視能訓練士教育における眼科検査技術を定量的に「見える化」する研究を行っています。全手動で視野を測る検者のスキルを、検査プロセスから検査結果の検出に至るまで数値化する「Goldmann視野計検査における検者の技能評価」では、スキルを評価するための専用システムを導入しました。眼科検査・訓練のスキルに対する客観的な評価は、教える側と教えられる側、双方の利益につながると期待しています。
視力測定はランドルト環を用いるのが一般的ですが、言葉を話せない乳幼児の視力は縞模様を用いて測定します。子どもは均質な灰色の面よりも縞模様を好むため、縞の細さを変化させることによって段階的な視力の数値が得られます。私たちのグループでは、視能訓練士が下すその乳幼児視力の判定を視線解析装置により自動化し、より客観的に視力測定できる装置の開発を目指しています。乳幼児用の自動視力計測システムが実現すれば、三歳児健診での弱視発見率の向上に大きく寄与します。弱視は早期発見が重要です。この研究が、子どもたちの未来を守ることにつながると信じています。
黒目(瞳孔)の大きさは眼の中に入る光の量に応じて変化し、明るいところでは小さく、暗いところでは大きくなります。その反応を利用して、光の量をコントロールしながら瞳孔の動きを詳しく分析することで、眼が正常に機能しているか判定することができます。「眼は口ほどにものを言う」と言いますが、この技術を検査に応用できれば、将来的には瞳孔を検査するだけで病気の有無を調べることができるようになるかもしれません。本ゼミでは、ドイツや国内の大学と共同研究を進めながら、眼の病気の早期発見ができるような機器の開発を目指しています。
視能訓練士は、正しい検査結果を得るため、眼科検査を受ける患者様にいくつかの「決まり」を守ってもらうよう声をかけます。例えば「目をしっかり開けてください」「顔の力を抜いてください」などです。これは単なる「視能訓練士が覚えなければならないお約束」ではなく、背景に生理学的な基盤があるはずです。本ゼミでは、基本的な眼科の検査を行いながら顔の表情や目の開き方を実際に撮影し、ゼミ担当が自作した画像処理アプリケーションを使って定量化します。得られたデータと、検査結果とを照らし合わせて、座学や実習で学ぶ声かけの重要性を定量的なデータとして示すことを目指します。
本ゼミでは、視覚の基礎的なメカニズムを解明することを目的として、色覚をはじめ、錯視や質感知覚、眼光学などに関する研究をしています。私たちの身の回りには、様々な光と色があふれています。色は、物理現象としての光の性質と、人間の感覚、生理、心理が構成するものであり、様々な不思議な現象が起こります。例えば、健常者であっても、見えている現象が実際の外界とは食い違う「錯視」という不思議な経験をすることがあります。これは、人間の眼と脳の仕組みが、カメラとコンピュータの仕組みとは違うことを示唆しています。このように、眼と脳の仕組みの奥深くを知る研究に取り組んでいます。