新入生の皆さん、入学おめでとうございます。保護者の皆様もさぞお喜びのことと存じます。ご子息、ご息女のご入学を心からお祝い申し上げます。
今日、新潟医療福祉大学に入学した皆さんは、先生から教えを受ける、受け身の「生徒」ではなくなり、自ら学業を修めるという生き方をする「学生」となりました。大学で学ぶことは、学び習う「学習」ではなく、自ら学び修める「学修」と書きます。18歳からはすでに「成人」ですが、より主体的に、自ら学ぶ「大人」としての自覚が求められる立場になったのです。
皆さんは「誰かの役に立ちたい」と望み、そのために必要なパワーを身につけるという明確な目的を持って、新潟医療福祉大学に入学したのだと思います。誰かの役に立ち続けるためには、常に学び、自らを高める努力を怠らないようにしましょう。新潟医療福祉大学の「学生」として、「学修」する習慣を速やかに身につけましょう。大学院に進むのでなければ、この新潟医療福祉大学が最後の学校となります。ですから、皆さんには「誰かの役に立つ」という目的意識を保ちながら、悔いのない大学生活を送って欲しいと願っています。
新潟医療福祉大学の建学の精神は、優れたQOLサポーターを育成し、地域社会のニーズに応え、国際社会に貢献すると謳っています。サッカーのアルビレックス新潟を応援するサポーターに倣って、「優れたQOLサポーターの育成」というスローガンを掲げているのですが、「誰かの役に立つこと」を「優れたQOLサポーターになる」と読み替えているのが分かると思います。
そのための学修目標が5つのSTEPSです。ここでSTEPSを紹介します。最初のSは「Science & Art」のSです。常に最新の専門知識と技量を学び、身につける能力を指しています。次のTは「Teamwork & Leadership」のTです。地域のクライアントのQOLを支えるためには、いまや単独の専門職では担い切れません。多職種の専門職が協力し、助け合って初めて、有効な支援が可能になります。そのチームに加わってチームワークを高める能力、リーダーシップを発揮する能力を指しています。次のEはEmpowermentで、クライアントを力づける能力、次のPはProblem-solvingで、新たな課題に直面しても、それを解決して行く能力を指しています。最後のSは「Self-realization、あるいはSelf-actualization」で、こうした学修を続けて自己実現を果たしていく能力です。いずれも能力ですから、努力すれば身につけることができます。皆さんには在学中の学修目標として、この5つのSTEPSを修得できるよう、カリキュラムが編成されています。この能力を修得することを、常に在学中の目標としてください。
優れたQOLサポーターとなって、誰かの役に立とうとするためには、もう一つ必要なことがあります。それは、他者に共感できる能力です。誰かの役に立とうと志す背景には、その人のことを気遣う気持ち、慮る気持ちがあるはずです。新型コロナについて言えば、自分が感染しているかもしれないと考えて、周りの誰かに感染させないように配慮する気持ちのことです。このように他者を気遣うことを「他を利する」と書いて「利他」といいます。この「利他のこころ」こそが、これからの皆さんに鍵となる言葉です。
利他主義は、利己主義エゴイズムに対峙する概念として、フランスのオーギュスト・コントが19世紀に定義したとされています。我が国では、他者を意味するフランス語に由来するaltruismを、もともと仏教の用語である利他と訳したのです。ということは、コントが定義する千年も前から、わが国には利他という考えが存在してきたことになります。
天台宗を開いた伝教大師最澄は「忘己利他」と教えています。己を忘れて、他を利すると書きますから、他を利するために、まず己を忘れるという自己犠牲を求めています。この最澄の前に、利他という言葉を初めて用いたのは、真言宗を開いた弘法大師空海とされています。空海は「自利利他」と唱え、自らを利すること、すなわち自己を深めることと、他者を救済することは一つであると教えています。「自他ともに」ですから、自らを大切にできない人は、他者を大切にすることもできないことになります。己を忘れるという利他主義に否定的な人も、これならば受け入れやすいと思います。将来、「優れたQOLサポーター」として、誰かの役に立つために働くことになる皆さんは、在学中にこの「利他のこころ」をしっかり身につけてください。
皆さんには誰かの役に立つという明確な目標があります。大学生活を謳歌するとともに、自分の将来の目標はどこにあるのか、その目標に対して自分はどれくらいの到達度にあるのかを節目節目に確かめるようにしてください。各学科にはDiploma Policy DPが設定されています。DPとは卒業認定や学位授与のための要件、つまり、卒業までにどのような能力を修得するのかを示したものです。このDPを達成することを目標として、各学科のカリキュラムが組まれています。これから節目ごとにDPに対する到達度を、皆さんと指導教員で確認して行きましょう。
皆さんの大学生活が豊かで実りあるものとなるよう、われわれ教員・職員は皆さんを全力でサポートします。皆さんの輝かしい未来と新潟医療福祉大学のさらなる発展を目指して、ともに歩んで行きましょう。
2024年4月5日 新潟医療福祉大学学長 西澤正豊