新入生の皆さん、入学おめでとうございます。今回の入学式には、3年振りにご来賓、並びに保護者の皆様にご臨席をいただくことができました。保護者の皆様もさぞお喜びのことと存じます。ご子息、ご息女のご入学を心からお祝い申し上げます。
新型コロナウイルスのパンデミックが始まって以来、世界は4年目を迎えています。皆さんの高校生活3年間はまさにその渦中にありました。皆さんはどのような高校生活を送ってきたでしょう。対面の授業や課外活動は十分できましたか。
さしもの新型コロナウイルスも、変異を繰り返す度に、感染力は高まっても、重症化はしにくくなくなりました。来る5月8日からは、新型コロナウイルスの感染法上の位置付けが、現在の「2類相当」から季節性インフルンザと同じ「5類」に変わります。これに伴い、これまで本学で実施してきたさまざまな感染対策も見直します。まだまだ制約が残る可能性もありますが、できる限り高校生活では十分できなかった活動を取り戻せるようにしたいと考えています。
ご存じのように3月13日から、マスクの着用は個人の判断に委ねられました。ここで一つ考えてほしいことがあります。オミクロン株の登場以降、若い世代は感染しても、ほとんど無症状の場合も多いですから、自らの感染を防ぐためにマスクを着用する意義が感じられないのも無理はありません。けれども、感染法上の位置付けが変わっても、ウイルスが変わったわけではありません。回りの人たちにうつしにくくするためにマスクを着用するのであって、マスクは感染拡大を防ぐ対策の一つなのです。周囲をみれば、依然として新型コロナウイルス感染に対してハイリスクである高齢者も、基礎疾患を持った若い人たちも私たちの身近で生活しています。このような人たちに配慮するために、本日の入学式では、式典中、マスクの着用をお願いしているのです。
新潟医療福祉大学の建学の精神は、優れたQOLサポーターを育成し、地域社会に貢献し、国際社会に貢献すると謳っています。サッカーのアルビレックス新潟を応援するサポーターに倣って、「優れたQOLサポーターの育成」というスローガンを掲げているのです。新潟医療福祉大学は、誰かの役に立ちたいと思う皆さんに、そのためのパワーを身につけてもらえることを目指す大学です。
優れたQOLサポーターとなって、誰かの役に立とうとするためには、他者に共感できる能力が必要です。他者に共感し、その人の役に立とうと志す背景には、その人のことを気遣い、慮る気持ち、コロナであれば感染させないように配慮する気持ちがあります。このように他者を気遣うことを「他を利する」と書いて利他といいます。この「利他」こそが、これから皆さんが新潟医療福祉大学で過ごす4年間で鍵となる言葉です。
利他主義は、利己主義エゴイズムに対峙する概念として、フランスのオーギュスト・コントが19世紀に定義したとされています。我が国では、他者を意味するフランス語に由来するaltruismを、もともと仏教の用語である利他と訳したのです。ということは、わが国ではコントが定義する千年も前から、利他という考えが存在してきたことになります。
天台宗を開いた伝教大師最澄は「忘己利他」と教えています。己を忘れて、他を利すると書きますから、他を利するために、まず己を忘れるという自己犠牲を求めています。この最澄の前に、利他という言葉を初めて用いたのは、真言宗を開いた弘法大師空海とされています。空海は「自利利他」と唱え、自らを利すること、すなわち自己を深めることと、他者を救済することは一つであると教えています。「自他ともに」ですから、自らを大切にできない人は、他者を大切にすることもできないことになります。己を忘れるという利他主義に否定的な人も、これならば受け入れやすいと思います。「優れたQOLサポーター」として、誰かの役に立つために働くことになる皆さんは、在学中にこの「利他」の精神をしっかり学んでください。
新潟医療福祉大学は新潟市北区島見町の地で、文字通り「ワンキャンパス」「ワンチーム」として活動してきた大学です。2001年に5学科、入学生321名からスタートして、開学23年目を迎えた今年度は14学科で1,197名、大学院で90名の計1,287名を新たに迎えました。新潟医療福祉大学は保健・医療・福祉・スポーツという分野に特化し、地域の人たちのQOLを支える多職種の優れた専門職を育ててきました。私も医師として、新潟市西区で認知症の患者さんと家族の支援に携わった経験がありますが、医師だけでは到底支援できません。地域で活動するさまざまな専門職が連携し、協力し合って初めて、有効な支援に繫がります。地域ではこのような連携ができる専門職が求められているのです。新潟医療福祉大学は14学科と大学院が文字通りワンキャンパスで活動し、創立当初から連携教育を重視したカリキュラムを実践してきました。ですから、多職種の連携やチーム医療を学ぶために最も適した大学であると自負しています。
そのために、今日は皆さんにお願いがあります。それは、各学科で設定されているDP (Diploma Policy)を確認することです。DPとは学位授与のための修了要件、つまり、卒業までにどのような能力を修得して欲しいかを示したものです。このDPの達成を目標として、各学科のカリキュラムが組まれています。これから節目節目にDPに対する到達度を評価し、皆さんと指導教員で確認して行きます。オリエンテーションでも説明があった通り、皆さんはこれから常にこのDPを念頭において、自らの卒業後の将来像をイメージし、目標への到達度を測りながら、大学生活に取り組んでください。
皆さんの大学生活が豊かで実りあるものとなるよう、われわれ教員・職員は皆さんを全力でサポートします。皆さんの輝かしい未来と新潟医療福祉大学のさらなる発展を目指して、ともに歩んで行きましょう。
2023年4月7日 新潟医療福祉大学学長 西澤正豊