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2022年度 卒業式学長式辞

2022年度 卒業式学長式辞

卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。大学院修了生の皆さん、修了おめでとうございます。学長として心からお祝いを申し上げます。今回の卒業式・修了式には3年振りに、ご来賓の皆様、並びに保護者の皆様にご臨席いただくことができました。保護者の皆様もさぞお喜びのことと存じます。ご子息・ご息女の晴れのご卒業・修了を心からお祝い申し上げます。
 
本日卒業なさるのは、理学療法学科120名、作業療法学科37名、言語聴覚学科38名、義肢装具自立支援学科36名、臨床技術学科96名、視機能科学科40名、救急救命学科52名、診療放射線学科77名、健康栄養学科41名、健康スポーツ学科203名、看護学科101名、社会福祉学科126名、医療情報管理学科89名の計1,056名、大学院を修了なさるのは修士課程38名、博士後期課程15名の計53名の皆さんです。本学は2001年の開学以来、13,751名の卒業生・修了生を送り出してきたことになります。
 
世界は新型コロナウイルスのパンデミックが始まって4年目を迎えています。ウイルスは変異を続け、感染力は高まっても、重症化はしにくくなりました。そこで、来る5月8日からは感染法上の位置付けが現在の「2類相当」から季節性インフルエンザと同じ「5類」に変更されます。さらに3月13日からはマスクの着用が室内外を問わず、個人の判断に委ねられました。しかし、感染法上の位置付けが変更されても、ウイルスが変わるわけではありません。周囲の人たちにうつしにくくするために、自らを感染しにくくするためにマスクを着用するのであって、マスクは感染拡大を防ぐ対策の一つなのです。このため、本日の卒業式・修了式では、式典中はマスクの着用をお願いしています。
 
周囲をみれば、依然として新型コロナウイルス感染に対してハイリスクである高齢者も、基礎疾患を持った方も身近に生活しています。オミクロン株の登場以降、若い世代は感染しても、確かに軽症で済むようになりました。ほとんど無症状の場合が多いですから、自らの感染を防ぐためにマスクを着用する意義は感じられないのも無理はありません。しかし、皆さんの中にはこれから、他者への配慮、特にさまざまな弱者への配慮が求められる職場で働くことになる人が多いのです。
 
新潟医療福祉大学の建学の精神は、優れたQOLサポーターを育成し、地域社会に貢献し、国際社会に貢献すると謳っています。優れたQOLサポーターとなるためには、他者に共感できる能力が必要です。誰かの役に立とうと志す背景には、その人のことを気遣い、慮る気持ち、コロナであれば感染させないように配慮する気持ちが存在するのです。このように他者を気遣うことを「他を利する」と書いて利他といいます。
 
利他主義は、フランスのオーギュスト・コントが利己主義エゴイズムに対峙する概念として19世紀半ばに定義したとされています。他者を意味するフランス語に由来するaltruismを、わが国では、もともと仏教用語である「利他」と訳したのです。ということは、わが国ではコントが定義する千年も前から、利他という考えが存在してきたことになります。
 
利他はもともと仏教の用語と言いましたが、天台宗を開いた最澄は「忘己利他」と教えています。己を忘れて、他を利すると書きますから、他を利するために、まず己を控えるという自己犠牲が求められているのです。
 
最澄の前に、利他という言葉を初めて用いたのは、真言宗を開いた弘法大師空海とされています。空海は「自利利他」と唱え、自らを利すること、すなわち自己を深めることと、他者を救済することは一つであると教えています。自他ともに、一体として成就されるというのです。ですから、自分を大切にできない人は、他者を大切にすることもできないことになります。己を忘れるという利他主義に否定的な人たちも、これならば受け入れやすいと思います。
 
地域のクライアントのQOLを支えるために、クライアントを気遣うことは、自分にとっても喜びとなり、自己実現を果たすことに繋がります。本学が教育の到達目標としている5つの能力「STEPS」の最後のSは自己実現を成し遂げる力です。他者を気遣いながら「優れたQOLサポーター」として働くことが、皆さんの自己実現に繋がるよう願っています。
 
卒業生の皆さんの多くは、これからさまざまな分野で、クライアントのQOLを支える専門職として、他の専門職と協働して活動することになります。ともに働くためには、他の専門職を互いに尊重し、支え合う必要があります。本学を卒業された皆さんには、ここでも他者を気遣うという利他の精神が求められているのです。利他という言葉は、これから長い人生を歩んで行く皆さんにとって、大切な鍵となる言葉です。
 
新潟医療福祉大学は創立以来、学科の枠を超えた連携教育を重視したカリキュラムを採用し、これから皆さんが「優れたQOLサポーター」として活躍できるように、われわれ教職員は皆さんを、全力を挙げてサポートしてきました。今度はあなたたちが種を撒く番です。次の世代のために、新たな種を撒き続けてください。これから実社会に漕ぎだす皆さんの前途が輝かしいものとなるように、私たちは皆さんの卒業後もサポートを惜しみません。皆さんの活躍を心からお祈りしています。
 
末尾に、私から皆さんに「はなむけの言葉」を送り、卒業式・修了式の学長式辞とします。
 
「明日この世がなくなってしまうとしても、僕は今日もリンゴの木を植える」

2023年3月17日 新潟医療福祉大学学長 西澤正豊