五十嵐小雪さん(大学院修士課程 健康スポーツ学分野、スポーツ庁委託事業「女性アスリートの育成・支援プロジェクト」RA)と佐藤大輔教授(健康スポーツ学科、スポーツ神経生理学Lab、運動機能医科学研究所)らの研究論文が国際誌に掲載されました!
【研究結果】
月経周期によって一次体性感覚野の興奮性は変動する
【研究成果のポイント】
1.女性は、月経周期により足関節捻挫の発生率が変化することが知られていますが、足関節の角度を感じる能力(関節位置覚)やそれに関わる脳の活動(一次体性感覚野)が月経周期によって変化するかは分かっていませんでした。
2.排卵期に、一次体性感覚野を調節する神経活動(抑制性ニューロン)の働きが低下することが明らかとなりました。
しかし、月経周期によって関節位置覚は変化しませんでした。
3.今後は、感覚情報に対する処理やそれをもとに運動することが月経周期によって、どのように変化するかを調べていく必要があります。
【研究内容と成果】
本研究では、女性被験者の月経周期を把握して、卵胞期・排卵期・黄体期の3期に実験を行いました。
まず、一次体性感覚野の興奮性や抑制性の活動を調べるために、下腿の神経に1発または2発の電気刺激を与えて、刺激に対する一次体性感覚野の反応を評価しました(図1)
続いて、感覚機能を調べるために、刺激を感じ取る能力(閾値)と関節位置覚を測定しました。
関節位置覚は、足関節を決められた角度に素早く正確に再現する課題を行い、設定された角度と再現した角度との誤差で評価しました(図2)
その結果、排卵期に一次体性感覚野の抑制性ニューロンの働きが低下することが分かり、月経周期は、一次体性感覚野の活動を変化させることが明らかとなりました(図3)
これには、排卵期に多く分泌されるエストロゲンの神経の興奮性を高める作用が関係していると考えられます。
一方で、感覚閾値や関節位置覚などの感覚機能は月経周期によって変化しないことが分かりました。
【五十嵐さんからのコメント】
現在、月経周期は多くの研究で着目されていますが、実際に月経周期が何に対してどのような影響を与えているかということは、まだ詳しく分かっていません。しかし、本研究の結果から、一次体性感覚野の興奮性は月経周期によって変動する一方で、感覚機能は変化しないことが明らかとなりました。今回は、感覚機能のみに焦点を当てて研究を進めてきましたが、私たちが生活をする上で、感覚情報をもとに行動することが必要不可欠になります。そのため今後は、感覚情報を処理する過程やそれをもとに行動や運動に移すことに着目し、感覚運動機能が月経周期によって変化するかどうかを検討していきたいと考えています。
参考図
図1.一次体性感覚野における神経活動活動の評価
http://www.nuhw.ac.jp/topics/news/2006292.pdf (25.7KB)
図2.関節位置覚の評価
http://www.nuhw.ac.jp/topics/news/2006293.pdf (29.7KB)
図3.一次体性感覚野における抑制性の神経活動の変化
http://www.nuhw.ac.jp/topics/news/2006294.pdf (29.6KB)
掲載論文
【題名】Influence of menstrual cycle phases on neural excitability in the primary somatosensory cortex and ankle joint position sense.
(月経周期による一次体性感覚野の興奮性と足関節位置覚の変化)
【著者名】Koyuki Ikarashi, Kaho Iguchi, Yudai Yamazaki, Koya Yamashiro, Yasuhiro Baba, Daisuke Sato
【掲載誌】Women’s Health Reports
>>研究の背景についての詳細はこちら
https://www.nuhw.ac.jp/research/2020/06/post-16.html