2019年7月 9日 13:55 更新
プレスリリース
研究成果のポイント
1. 回流水槽を用いて、スイマーの周りの水の流れを立体的に可視化することに成功し、キック泳(水中ドルフィンキック;イルカのように水中を進む潜水泳技術)で速く泳ぐためには、足裏の渦の作り方とその扱い方が一つのカギであることを見出しました。
2. 水中をキック泳で推進しているスイマーは、足を上下に振っているだけのように見えますが、モーションキャプチャを使って詳細に調べると、推進するための重要な局面で下肢の捻り動作(内・外旋)を行っていたことが分かりました。
3. 本研究で開発した、流れの三次元的な可視化手法を用いれば、カメラ撮影のみで、流れの情報からスイマーが得た推力の大きさを計算できるようになります。
国立大学法人 筑波大学体育系 高木英樹教授、学校法人 新潟総合学園 新潟医療福祉大学健康科学部 下門洋文講師らの研究グループは、筑波大学が保有する実験用回流水槽を用いて、キック泳中のスイマーの三次元動作解析とスイマーの周りの流れの三次元的可視化を同時に行い、その推進メカニズム解明に取り組みました。
スイマーは、非定常状態、いわゆる乱流のような水の流れを推進に利用して水中を移動できているため、この非定常状態の流れにこそスイマーの推進メカニズム解明のカギが隠されていると考えられてきました。しかしながら、スイマーの手足に働く力については、これまで、直接測定する手段が無く、防水型圧力センサを手足に貼り付ける方法などが用いられてきましたが、力の大きさが分かっても、力の方向やその原因にまで言及することができず限界がありました。本研究は、流れを可視化する流体力学的手法をヒトの水泳運動に適応するよう独自に改良し、キック泳中のスイマーの下肢の動きとその周りの流れを、初めて三次元的に計測し、可視化することに成功しました。
その結果、キック泳の推進メカニズムは、スイマーの足裏にできる渦の形成過程から説明できることがわかりました。この、流れの三次元可視化法を用いると、センサ類を身体に貼り付けることなく、カメラで撮影するだけで泳者が得た推力を周りの流れの情報から計算することができます。これらの成果は、より効果的な水泳の指導方法に応用できると期待されます。
本研究成果は、明治大学、シドニー大学、ノルウェー体育大学との国際共同研究として進められてきたものであり、バイオメカニクス分野のトップジャーナルであるJournal of Biomechanicsにおいて、2019年7月4日付で先行公開されました。
掲載論文
【題 名】
A quasi three-dimensional visualization of unsteady wake flow in human undulatory swimming.
(ヒトのうねり泳中の非定常な後流の準三次元的な可視化)
【著者名】
Hirofumi Shimojo, Tomohiro Gonjo, Jun Sakakibara, Yasuo Sengoku, Ross Sanders, Hideki Takagi
【掲載誌】
Journal of Biomechanics(DOI: 10.1016/j.jbiomech.2019.06.013)
本研究の詳細はこちら
http://www.nuhw.ac.jp/topics/news/190709.pdf (920KB)
問合わせ先
高木 英樹(たかぎ ひでき)
筑波大学 体育系 教授
下門 洋文(しもじょう ひろふみ)
新潟医療福祉大学 健康科学部 健康スポーツ学科 講師