専門領域・研究分野について教えてください。
生殖補助医療におけるケアについて研究しています。生殖補助医療とは、体外受精や顕微授精によって赤ちゃんを授かる方法のことをいいます。本邦では施設数・実施数は共に世界一を誇っていますが、ケアについては進展が見られていない現状があります。特に、不妊原因というと、社会一般には女性が原因であるかと思われがちですが、実は女性・男性半々の割合となっています。
そこで私は、これまでフォーカスが当たらなかった男性不妊の方へのインタビューを通して、男性にとっての子どもの意味や治療過程における心理、そしてまだ見ぬ子どもへの思いについて調査し、臨床ケアに役立てられるよう分析を進めています。男性不妊の方はなかなか思いを語らないと思われがちですが、実は治療過程においてたくさんの葛藤を抱え、思いを表現する機会すらないことがわかってきました。
この研究を通して、男性不妊の方々が治療過程の中で語ることのできない思いを話す場所や機会が設定できるようになること、男性にとって重要な位置を占める就業との両立や、女性と同じように助成金による援助といった男性不妊の方への支援制度ができることを期待しています。
また、不妊カウンセラーの認定を受け、大学に所属しながら電話やメールによる不妊カウンセリングを行っています。看護職は、臨床と研究と教育を同時に実践するのが難しいとよく言われます。病院で働くか、大学に勤務するか、そういった選択肢ではなく、常に現場にいながら、研究や教育を行っていくことは欠かせないということを大学院時代に学び得ました。授業や実習指導等でカウンセリングの対応が難しい場合もありますが、なるべく患者様の治療における必要な知識や心の準備に支援できるように、学内では常に白衣でいることも私のモットーとなっています。
当該分野に興味を持ったきっかけを教えてください。
高校3年生の夏の出来事です。始業式の最中に腹部の激痛に襲われ、そのまま緊急入院・・腫瘍摘出手術を受けました。受験勉強の真っ盛りでしたので、高校生の私にとっては、とてもとても受け止めきれない出来事でした。術後は麻酔の影響もあって、なかなか思うように経過することができなかったのを覚えています。ましてや10代です。初めて産婦人科に入院するわけですから、さすがに心も折れました…。3食出てくる味気ない病院食に、そのやり場のない気持ちをぶつけるかの如く、病室の窓から食事の入った器を逆さにしては、下にある給食センターの裏に集まっているネコちゃんたちにあげていたこともありました。
その時に出会ったナースや医師、そして何よりも、私より年上の患者である先輩の女性たちとの出会いは、その先にある私の人生を考える上でのたくさんの問いかけをしてくれました。その内容は大学生の時、「心に残る医療」という日本医師会主催の論文大賞の佳作に選んでいただきました。しかし、大学入学後は、やっぱり看護ってなんだろう、私の目指すものはどこなんだろうと考えている自分がいました。
大学2年生の時、「土日も朝から採卵をしているから、興味のある学生は見においで」と産婦人科の准教授が授業の終わりに話されたので、一人、白衣を着て産婦人科外来に行ってみたのが、特に生殖補助医療に興味を持ったきっかけでした。ドアの先にあったものは、最先端の体外受精の現場そのもの。ミリ単位の技術に息をのみ、早々に退散しようとしていたその時、内診台に上がっていた女性の言葉、「今日は看護師さんがいるんですね、手を握ってて!」。生殖補助医療における看護師としてのサポートの重要性を感じ、専門的な勉強を始めました。
活躍の場や、将来性について教えてください。
助産師の活躍の場は、病院やクリニックだけでなく地域で訪問活動などが出来る保健所、さらには開業することも可能で、幅広い場でその力を発揮することが出来ます。また、昨今の産科医不足もあいまって、助産師の求められるスキルも広範囲になってきています。単にお産に携わるだけでなく、女性の生涯におけるより良き理解者として、そして私のように、そのパートナーである男性への支援、そしてまだ見ぬ小さな生命も含めて、「リプロダクティブヘルス=性と生殖に関する健康」の視点での知識と技術が生かされる資格と考えています。
担当授業の魅力について教えてください。
2年次後期から3年次前期にかけて開講している「リプロダクティブヘルスケア演習Ⅰ・Ⅱ」の授業では、妊娠期の女性と胎児の約10か月間に渡るダイナミックな変化と、生命の誕生、そして育児期に至るまでにおける母子とその家族への援助技術を学習します。また、女性の一生における各ライフサイクルの課題について、予防的な支援と、さらにより快適に過ごすための知識と技術を学習します。
2年次後期に開講している「性と生殖」の授業では、先進国の中で最も多い施設数を誇る生殖補助医療における喫緊の課題に着目し、不妊治療の実際や倫理的問題、必要な支援について看護の視点で学習します。さらに、私の専門分野でもある「男性不妊」について、最新の治療を踏まえた具体的支援について学習し、女性特有のがん(子宮頸がん、乳がん)についても、自身の研究内容を盛り込んだ予防的支援について学習します。
これらの講義と学内演習を通して学んだ知識と技術は、3年次後期に開講している「母性看護学実習」において最大限に生かされてきます。実習では、県内の総合病院・クリニックの産科病棟と外来において、妊婦さんはもちろんのこと、今まさに出産を迎えようとしている家族や育児が始まった母子とその家族を実際に受け持ち、ケア計画を立てて実践します。他領域のように、疾患を患った患者さんが対象ではなく、妊娠・出産といった人生における大事なライフイベントの一つにたずさわることが出来るこの科目は、学生の皆さんにとってもかけがえのない時間となります。看護を目指すものにとっては、やりがいと生命の素晴らしさを身をもって感じることが出来る科目となります。
教育・授業において大切にしていることや考え方を教えてください。
「教える」ということではなく「伝える」こと。第一回目の授業で必ず話すこと、臨床にいるときから心にある私の大事なモットーです。ついつい、医療者って、特に助産師は「指導」的になりがちですね。でも患者さんの方がたくさん知っていて経験していて、そして頑張っていて。学生の皆さんも、私よりも面白い視点があってパワーがあって。思わず授業の中でも「へぇ、すごいね!」「面白い!」とマイクで大声で言われたことがある学生さん多いのではないでしょうか?(笑)。私の方がたくさんエネルギーもらっている毎日です!
最後にメッセージをお願いします!
ずっと会いたいと思うまだみえないいのちのはじまりに、助産師は携わることが出来ます。小さな小さな鼓動が見えた時の感動を、助産師は一緒に感じることが出来ます。そのいのちの成長とダイナミックな女性の変化を、助産師は間近でサポートすることが出来ます。そして誕生の瞬間、決して驕ることなく一番最初にそのいのちに触れ、助産師は家族の誕生を一緒に分かち合うことが出来ます。いのち一緒に育むことが出来る魅力ある助産師という仕事を、ぜひ一緒に味わってみませんか。
次のセンセイを紹介してください。
青空の下、グランドで太陽に負けないくらいいつもキラキラ輝いている健康スポーツ学科の山代先生にバトンタッチ! 学生の皆さんと元気いっぱい過ごされている姿がとても素敵なんです!ツナガリと言えば、ん~、そうですね~、『ボクシングツナガリ』かな(フフフ…♪)。山代先生、ゴングなりましたよ~!