髙橋先生の専門領域・研究分野について教えてください。
生命維持治療に必要不可欠なデバイスの開発に関する研究をしています。
生命維持治療の一つに、血液浄化療法があります。この治療は、血液を体外に出し血液中に浮遊している病因物質を除去した後に、きれいになった血液を生体内へ戻して病態の改善を図ることが目的です。その際に必要不可欠なデバイスが、ダブルルーメンカテーテル(以下カテーテル)です。このカテーテルが臨床現場で引き起こすトラブルは、血液データや病態の改善に直接影響を与えることが知られています。
大学病院で勤務していた頃のこと、血液浄化療法を二十四時間受けている男性とのやり取りがありました。「こんな機械がついてたんじゃ夜も眠れないよぉ。治療をやめてくれ。」との一言が・・・。深夜に鳴り響くアラームとその処置が睡眠の妨げになっていたのです。アラームの原因の一つは、カテーテルでした。私は、悪化した血液データが生体に及ぼす影響について説明することで、男性に現在おこなっている治療の必要性についてなんとか納得していただきました。
「トラブルが発生したらその場で解決する」ということだけに目を向けていた当時の私でしたが、「トラブルは根本を解決する」ことが重要であることに気付きました。私は研究の先にある病を患う現代人の姿を想いながら、カテーテルの改良の可能性を日々追い求め続けています。
臨床技術の分野に興味を持ったきっかけを教えてください。
時を遡って考えてみると、私が小学校低学年に在籍していた頃に両親の仕事や趣味の影響を受けたことが大きいのではないかと思います。
父親は大型機械を扱う仕事をしており休日は、趣味で電子工作を楽しんでいました。母親は体の不自由な方のお世話をする仕事に従事しており、休日はボラン ティア活動をしていました。そんな環境で育った私は、何気なく入った大学の2年生の頃に「臨床工学技士」という資格があることを知りました。臨床工学技士 という聞いたこともない国家資格を調べていくうちに、本当に自分の興味とやりがいを見出せるであろうと考える理想の職種であることが分かりました。
両親の影響を受けてかもともと機械などを扱う工学を生かして医療現場で患者さんの役に立ちたいと考えていた私は、医療現場の資格を十分に把握しておらず企 業に就職するしかないと考えていました。臨床工学技士という資格を知った時は衝撃的でした。病院に就職して患者さんと触れ合いながらなおかつ高度な医療機 器を扱うスペシャリストになれるという願ってもない職種だったのです。
髙橋先生の担当授業の魅力について教えてください。
医用治療機器学および生体機能代行装置学など、医療現場で実際に使用する医療機器分野を主に担当しています。
人は誰でも突然の病を患ったり、大きな災害や事故に巻き込まれることがあります。医療現場には、現実には考えられないほどの重症疾患を患った方や特殊治療が必要な方が昼夜関係なく運ばれてきます。そこで必要不可欠なのが検査や治療目的で用いられる医療機器です。馴染みの無い医療機器に親近感が得られるように、日常的にイメージしやすい現象や理論に基づき説明をすることで複雑な構造の医療機器を分かりやすく説明するようにしています。
さらに理解度を向上させるため、なるべく体験型の授業を心がけています。例えば医用治療機器学の授業では、電気メスを使用して学生さんが持参しているものをその場で切ってみせることで電気メスの特徴を理解することができます。昨年は、生体実験として手で握った電球を電気メスで点灯させる実験を学生さんに行ってもらいました。それを見ていた学生さんたちは注目をしてくれましたし、拍手で盛り上げてくれました。生体機能代行装置学では、実際に人工呼吸器を装着することで機器の特徴の理解が深まると考えています。人工呼吸器を装着する人はどんな疾患かを理解するために、擬似的に疾患を模擬した体験を行いました。
百聞は一見に如かずとよく言いますが、学生さんが体験することで理解度はより効果的に向上します。
髙橋先生が、教育・授業において大切していることや考え方を教えてください。
医療現場では、医療機器の操作一つの失敗が命にかかわる重大な事故につながる可能性があります。失敗から学ぶことは計り知れないほど得るものが大きいです。学生さんは授業中になるべく間違えたくないため、 発言を遠慮しがちになりますが、私の授業では発言をどんどんしてもらいます。時間はかかりますが授業に参加している学生さんに適度な緊張感と積極性をもっ て欲しいからです。
授業中に経験した失敗は、絶対に忘れません。臨床現場ではやってはいけない失敗を今の段階でシミュレートします。学生のうちに経験する失敗は起こりうる重 大な事故を事前に把握するためです。医療現場で少しでも今勉強していることが役立つよう、常に医療現場で働くことをイメージして進行することを心がけてい ます。
臨床技術学科の目指す資格の活躍の場や、将来性について教えてください。
本学科の目指す資格は、「臨床工学技士」と「臨床検査技師」です。
この二つの資格を、主に扱う医療機器別に分類してみると、治療にかかわる医療機器を扱うのが「臨床工学技士」、検査にかかわる医療機器を扱うのが「臨床検査技師」です。両者の資格を取得することで現在の資格の枠を超えた業務が可能となります。
これを本学科では『臨床技術者』と呼んでおり、医療現場に新しい概念を取り入れることで患者さんにとってQOLが向上することを期待しています。当たり前のことですが、両資格共に技術の進歩が目覚ましく変化する中での医療系資格のため常に新しい知識や技術を習得する必要があるため、生涯勉強が必須となります。人の命を預かる大変な仕事であるからこそ、将来性のある仕事ではないでしょうか。
髙橋先生から見た新潟医療福祉大学、在籍する学生について教えてください。
新潟医療福祉大学に在学する学生さんは、あいさつがいつも元気ですし何事にも積極的です。分からないことはよく研究室に質問にきてくれますし、分かるまで粘って聴いてくれます。忙しい時は困ることもありますが(笑)、教員を困らせるくらいがちょうどいいと考えています。
医療系の職種は患者さんと接することが多いので、コミュニケーションが大切です。学生さんのコミュニケーション能力を心配しておりましたが、さすが医療を目指す学生さんだけあってコミュニケーション能力の高い学生さんが非常に多いです。かといって授業中、必要のないコミュニケーションをしている人は見当たりませんし、メリハリのある真面目な学生さんが多いのだと感じています。
最後にメッセージをお願いします!
新潟医療福祉大学での目標は、国家試験合格も大切ですが、それが最終的なゴールではありません。
国家試験合格の先にある人生は人それぞれです。自分自身が常に将来どのようなビジョンで働きたいのか、何をやりたいのかを考えておくことが、将来設計に役に立つと考えています。目の前のことを集中して考える力と遠い将来のことを計画的に考える力、両方を実践できるように頑張ってください!
次のセンセイを紹介してください。
広報、学生、交通安全委員でお世話になっている、作業療法学科 岩波先生です。
そして2012年の新潟シティマラソンで走行中に偶然お会いしたことも!