パラリンピックの認知度や関心の高まりにより、各パラスポーツ競技や種目に適した義足や義手、車いすの開発が進んでいます。
パラスポーツ競技の一つである陸上競技ではスポーツ用義足が使用されますが、使用される義足の足部は、通常、走者の体重を目安に選定されています。
しかし、選定をしていくうえでは、本来、身体的パラメータと運動パラメータを総合して評価をするほか、最高疾走時だけでなく、加速の過程を評価することも重要であると報告されています。
近年、定量的評価の報告は増加しているものの、その報告は数走行周期の計測に留まっており、義足走者を対象とした動作解析には、全走行過程を対象とした評価が必要となります。
通常、床反力計を設置していない陸上トラックでは、床反力を計測することは難しいです。義足走行では接地時の衝撃をロスなくエネルギーとして義足足部に蓄積し、つま先離れと同時に、そのエネルギーを開放することが、効率の良い推進力を得ることになります。そのため、走行中の床反力鉛直方向成分を推定し、可視化することは、走者やトレーナー、義足パーツの選定にとって大変重要なこととなります。
この研究は、モーションセンサを応用して、全走行過程を対象に義足走行の解析システムの構築を目的としています。モーションセンサは直接、体表・義足本体に貼付・設置するため、走者は心理的・身体的な拘束を受けずに、全走行過程を通した動作計測が可能となります。
特にこの研究では、床反力計が設置されていない陸上トラックにおいても、走行パフォーマンスの向上に重要とされる床反力鉛直方向成分を走行用義足足部(通称:板バネ)の撓みを利用して推定し可視化することができます。
さらに、走行用義足足部のバネ特性の検証、下肢動作である踏み込みや蹴り出し、交互動作のタイミングによるバネ効率を解析し、義足走者の走行パフォーマンスとの関連性を検証および評価しています。
本システムは、心理的・身体的な拘束を受けずに、全走行過程を通した動作計測が可能であることに加えて、走行用義足足部の特性を活かした床反力鉛直方向成分を推定することを可能にしています。
しかし、現状ではリアルタイムな計測には至っておらず、データの解析にはある程度の時間を有します。
リアルタイム計測を可能にすることで、本システムを普段のトレーニングから取り入れ、日々のデータ解析とデータの蓄積によって、トレーナーやコーチ、理学療法士や義肢装具士といった各専門スタッフ間で共有できる情報となります。さらに、走行フォームの評価や義足パーツの選定、義足アライメントや義足長などの設定、走者へのフィードバックに重要な一指標となることが期待されます。
【研究者紹介】
新潟医療福祉大学 リハビリテーション学部 義肢装具自立支援学科
助教 髙橋 素彦
スポーツ義足走行の解析に関する研究を行っています。今後は走行だけに限らず、義足を用いたスノーボードに関する研究も進めていく予定です。