膝蓋大腿関節(膝のお皿)へのストレスが最も少ないスクワットは、どのくらいの屈曲度? - 医療を変える、理工学の学び

2019.09.02

膝蓋大腿関節(膝のお皿)へのストレスが最も少ないスクワットは、どのくらいの屈曲度?

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~11,011通りから導き出したランニング障害の治療プロトコル確立に向けたシミュレーション研究~

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近年ランニング人気が急上昇している

現在、健康増進の目的で年齢男女問わずランニングの人気が高まっています。ランニングは、簡便で手軽にできるスポーツとして、多くの人に親しまれているスポーツとなります。下図は、アメリカのランニングイベントの完走者を示しており、完走者は1990年から徐々に増え、2015年には1700万人が完走したことを発表しています。つまり、参加者も毎年増加していることになります。

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膝蓋大腿関節症(PFP)とは?

その一方で、ランニング障害の発生率も増加しています。代表的なランニング障害に膝蓋大腿関節症(PFP)があり、膝前面痛を主症状とします。PFP患者に対する運動療法のひとつとして理学療法ではスクワットの指導が行われることがありますが、その際にはPFPの疼痛憎悪因子である膝蓋大腿関節圧迫力(PFJF)とストレス(PFJS)の増加に注意する必要があります。つまり、この二つの因子を少なくし、疼痛が生じさせないようなスクワット指導が重要となりますが、どのスクワットの角度で最もPFJFとPFJSを少なくできるかどうかは分かっていません。そこで、本研究はPFP患者に行われるハーフスクワットを想定し、膝関節角度と膝関節モーメントを変化させてPFJFとPFJSの値をシミュレーションしました。
本研究は数学モデルを用いたシミュレーション研究であり、自作でのプログラミングコードによりシミュレートしました。方法として、ハーフスクワットの膝関節角度(0-90度)と膝関節モーメント(0-150Nm)を基に11,011通りのPFJFとPFJSの値をシミュレーションで計算しました。計算手順として、多項式により膝関節角度から大腿四頭筋のレバーアームを計算します。つぎにレバーアームと膝関節モーメントから大腿四頭筋張力を求め、大腿四頭筋張力からPFJF(N)を計算します。最終的に、膝関節角度から膝蓋骨と大腿骨の接触面積を求め、PFJS(MPa)を計算しました(下図)。

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結果

結果として、膝関節屈曲角度と膝関節伸展モーメントが減少するほど、PFJFは減少しました。一方で、膝関節伸展モーメントが減少するほどPFJSも減少しましたが、膝関節屈曲約30度でPFJSは最も減少しました(下図)。

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PFPのランニングの早期復帰を目指して

PFPの運動療法として、疼痛に応じて段階的に運動療法の負荷を変えていく必要があります。今回の研究では、どの膝関節伸展モーメントの値を取ったとしても膝屈曲約30°で最もストレスが小さいことが明らかになりました。簡便な運動療法であるスクワットを指導するにしても、スクワット姿勢の影響も考えた指導が重要であることがわかりました。
今回の研究では上半身の姿勢の影響は考慮していませんので、上半身の姿勢も考慮したシミュレーション研究も今後行っていこうと考えています。今回のシミュレーションで得られた研究結果をもとに、将来的にはPFPに対する治療プロトコルの確立に繋げていきたいと思います。

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takabayasi.jpg【研究者紹介】
新潟医療福祉大学 リハビリテーション学部 理学療法学科
助教 高林 知也
足部をテーマとした、ランニング中における足部内の詳細な動きを検証することでランニング障害発生メカニズムを解明する研究を推進しています。

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