透析治療をするためには、透析用の針を穿刺(せんし)することが治療をする上で必須であり、その針の形状や構造は異なる種類が存在します。透析患者への穿刺は最小限の傷で皮膚と血管壁を切開しながら穿刺針の刺入が望ましいとされており、針の形状の違いにより患者の傷口への影響や痛みの違いが知られているため、針の構造を把握することは重要であると考えられます。
針先の傾斜は、研磨法によるランセットまたはバックカットと呼ばれる加工がされています。バックカット加工の穿刺針は切れ味が優れ、針先先端刺入時の抵抗を低減させています。
図1 ランセット(上段)・バックカット(下段)の針先形状
図1は上段にランセット、下段にバックカットの針先形状を示しています。図1-a~cはランセットについて、それぞれ前面、側面、後面を示し、図1-e~gはバックカットについて、それぞれ前面、側面、後面を示しています。ランセットは前面の傾斜のみ研磨されており、側面と後面は湾曲した形状になっています。バックカットは、前面の傾斜が研磨されているのはランセットと同じですが、図1-f,gに示す通り後面をV字に研磨することによりランセットより鋭く尖っています。
今研究では、構造の異なる穿刺針を3種類用意し、穿刺針の構造の違いがブタ静脈血管に与える影響について評価システムを構築し、定量的に評価しました。
用意した穿刺針は、クランピングチューブ付きメディカットカニューラ(以下メディカット)、ハッピーキャスクランプキャス(以下ハッピーキャス)、ハッピーキャスクランプキャスP(以下ハッピーキャスP)です。
表1 穿刺針の仕様
我々は穿刺荷重を測定するため、シリンジポンプを用いて穿刺シミュレータを作成しました(図2)。測定方法としては、コンタクトレンズケース(以下容器)の蓋に直径約3cmの孔を開け、直径約4cmのブタ静脈血管を張り固定しコンパクトスケールに置く。 シリンジポンプに固定した透析用穿刺針をセットし1mm/sの速さでブタ静脈血管に刺入し穿刺荷重を測定しました。
測定方法は,ブタ静脈血管に針先が触れたところを穿刺荷重測定開始とし、内筒針と外筒針が容器の底に触れたところを穿刺荷重測定終了としました。穿刺角度は30 °、45 °、90 °に設定し、各3回測定を行いました。
図2 穿刺シミュレータ
バックカット加工がされているハッピーキャスPは、穿刺痕ではV字の切込みがみられました。そのため先端形状の違いは穿刺痕にも影響すると考えられます。
また、角度による穿刺荷重の違いがみられ、穿刺針の刃面形状が穿刺荷重に影響していると考えられました。
この研究結果により、針の形状や構造を解析し、患者にあった針を選択することは患者のQOLにつながる可能性が示唆されました。将来、この研究が進めば穿刺の痛みが少ない針の開発も可能になるかも知れません。
【研究者紹介】
新潟医療福祉大学 医療技術学部 臨床技術学科
講師 髙橋 良光
患者さんに合ったデバイスの検討、治療条件に合ったデバイスの選択について研究・開発を行っています。