シミュレーションを用いた研究でランニング障害は予防できる?! - 医療を変える、理工学の学び

2019.06.17

シミュレーションを用いた研究でランニング障害は予防できる?!

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現在、年齢男女問わずランニングの人気が高まっているが、その一方でランニング障害の発生率も増加しています。ランニング障害のなかでも、膝前面痛が主症状である膝蓋大腿関節症(しつがいだいたいかんせつしょう)は、ランニング障害全体の25%を占めています。この膝蓋大腿関節症は、ランニング競技のアスリートだけではなく、一般的に趣味としてランニングを楽しむランナーにも現在多い症状の1つといえます。

注目したのは膝にかかるストレス

膝蓋大腿関節症の危険因子として、膝蓋大腿関節(PFJ)にかかる圧迫力(PFJF)とストレス(PFJS)の増加が関与することがわかっています。これまで圧迫力(PFJF)とストレス(PFJS)を減少させるにはランニング時に前足部で接地すること、あるいはステップ長を短くする戦略があると報告されていました。これらの戦略は、膝関節角度と膝関節モーメントを変化させ、結果的に関節角度とモーメントが圧迫力(PFJF)とストレス(PFJS)を変化させます。

しかし、膝関節角度とモーメントがどのような組み合わせで圧迫力(PFJF)とストレス(PFJS)を最も減少させるか、あるいは最も増加させるかについては明らかになっていません。そこで、本研究ではシミュレーションにより膝関節角度とモーメントの変化が圧迫力(PFJF)とストレス(PFJS)に与える影響について検証しました。

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膝関節伸展モーメントが最大の時、PFJFは屈曲角度40度で最大値(42.3 N/kg),屈曲角度10度で最小値(24.9 N/kg)を示した(図2)。一方で、ストレス(PFJS)は膝関節伸展モーメントが最大の時、屈曲角度10度で最大値(14.0 N/mm2)を示し、屈曲角度29度で最小値(11.6 N/mm2)を示した(図3)。

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膝蓋大腿関節症の危険因子には圧迫力(PFJF)とストレス(PFJS)の増加が関与しており、膝蓋大腿関節症を予防および治療するためにはこの2つの要因がどのような状況で減少・増加するかを理解することが重要であると考えられます。本研究により、膝関節伸展モーメントが減少するほど圧迫力(PFJF)とストレス(PFJS)は減少することが明らかになりました。一方、膝関節屈曲角度が減少するほど圧迫力(PFJF)は減少したが、ストレス(PFJS)は膝屈曲角度が約30度で最も減少することが明らかになりました(図4)

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より健康で安全にランニングを楽しむために

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このシミュレーションで得られた研究結果をもとに、将来的にはランニング障害の予防に繋がる臨床研究に活かしていきます。

また、研究者は女性アスリートのランニング障害発生率が高いことから、その障害予防についても研究を進めています。

老若男女問わず、より健康で安全にランニングを楽しめる日を目指して更なる研究を推進していきます。

 

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【研究者紹介】
新潟医療福祉大学 リハビリテーション学部 理学療法学科
助教 高林 知也
足部をテーマとした、ランニング中における足部内の詳細な動きを検証することでランニング障害発生メカニズムを解明する研究を推進しています。

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