2024.02.13
宮下祐美子さん(救急救命学科1期生,大学院修士課程2年)と外山元さん(現役消防職員,大学院博士後期課程1年)、竹井豊教授(救急救命学分野)らの研究論文が、国際誌「American Journal of Emergency Medicine」に採択されました。
(写真:宮下さん)
【研究概要】
本研究では、交通事故が起因した院外心停止例の特徴を医原性と非医原性とで比較し、神経学的に良好な転帰に影響を与える因子の特定を目的として、2018 年 から 2020年 までの全国救急蘇生統計データ379,845 件を対象として統計学的に分析が行われました。疾病などが原因で交通事故が発生し心停止に至った「医原性」群と、心停止の原因が交通事故であった「非医原性」群とに分類して、院外心停止の特徴を比較するとともに、傾向スコアマッチングによる多変量解析によって、神経学的に良好な転帰と関連する因子を特定しました。
分析の結果、医原性の交通事故心停止例は非医原性例と比較して、日中時間帯に発生した例、男性及び若年患者例、初期心電図波形が除細動可能な例、救急隊が高度気道管理及びアドレナリン投与を実施した例が多く、現場から病院までの搬送時間は短かったことが判明しました。また、傾向スコアマッチングによる多変量解析の結果、医原性の交通事故心停止例は、非医原性例に対して神経学的に良好な転帰と関連する因子であると特定されました。
この研究結果は、公衆衛生および救急医療従事者にとって重要な示唆を提供しており、将来のさらなる研究を導くものであり、類似の症例の予後を改善し、生存率を向上させるための病院前救急医療の戦略を最適化する方針の指針となりえる論文といえます。
本研究成果は,救急医学の専門国際誌「American Journal of Emergency Medicine (Impact Factor: 3.6)」に掲載されました。
【研究者のコメント】
一つのテーマを掲げ、それに関する論文を投げ出すことなく書き上げられたことが、最も良かったことだと考えています。得られたデータをただ作業的にまとめるのではなく、何故そのような結果が得られたのか、本質を見抜くことが肝要だと度々指導されることがありました。それまでに培った知識を元に、救急救助の現況(総務省消防庁掲載)などの報告と照らし合わせることで本質を探ろうとする過程は、決して楽なものではありませんでした。多面的に考えたつもりで主観が多分に含まれていたり、考察しようとしてさらに迷走し、見当違いな考察をしかけたりと前途多難と感じる時もありました。何度も検討を繰り返して漸く及第点と言える回答に辿り着くことが出来たことも多く、心身ともに疲弊することもありました。
一方で苦労した日々があったからこそ、腐ることなく最後までやり遂げたという事実は、今後人生を歩む中で自信の一つになると思っています。現在に至ることが出来た要因には、指導教員の竹井先生や、論文の内容を共に精査してくださった共著者の先生方の存在が大きいと考えています。特に竹井先生は一歩離れた距離感ではありつつも理に適った指導をしつつ、自信を喪失して塞ぎがちの私に根気よく付き合ってくださったことなど、感謝の念に堪えません。
客観性を養えたことや諦めずに論文執筆を継続することが出来たこと、今後の救急活動に関する研究の足掛かりになるような研究を行えたことなど、大学院生活を送らなければ得なかった経験をしたことが、この二年の成果だと考えています。
【原著論文情報】
Yumiko Miyashita, Yutaka Takei, Gen Toyama, Tsukasa Takahashi, Tetsuhiro Adachi, Kentaro Omatsu, Akane Ozaki. Neurological Outcomes in Traffic Accidents: A Propensity Score Matching Analysis in Out-of-Hospital Cardiac Arrest. Am J Emerg Med. 2024 Jan 21;78:176-181. https://doi.org/10.1016/j.ajem.2024.01.028