Le Cong Datさんと佐藤大輔教授らの研究論文が国際誌に掲載! - 新潟医療福祉大学 研究力

新潟医療福祉大学 研究力

2022.10.17

研究者 Le Cong Dat

Le Cong Datさんと佐藤大輔教授らの研究論文が国際誌に掲載!

Le Cong Datさん(大学院医療福祉学研究科、博士後期課程1年、スポーツ生理学ラボ、運動機能医科学研究所)、佐藤大輔教授(健康スポーツ学科スポーツ生理学ラボ、運動機能医科学研究所)らの研究グループでは、「どうすれば感覚運動機能に重要な感覚運動野の神経活動を効率的に変化させることができるか?」というテーマで研究を進めています。 今回の研究では、手のひらへの水流刺激が、一次体性感覚野における神経の興奮作用と抑制作用のバランス(興奮抑制バランス)を変化させる可能性を示しました。

研究成果のポイント

  1. 私たちの体性感覚機能の向上に重要な役割を担う一次体性感覚野の興奮抑制バランスは、指先への持続的な電気刺激によって変化することが分かっていました。今回は、「手のひらへの水流刺激」というユニークな刺激による効果について調べました。
  2. 本研究の結果、一次体性感覚野の抑制作用がもともと低い人は、水流刺激によって、その活動が高くなることが分かりました。
  3. この結果より、手のひらへの水流刺激は、一次体性感覚野の抑制作用に障害のみられる神経疾患患者の抑制作用を改善できる有効な手段の一つとなる可能性が示されました。

Le Cong Datさんのコメント

これまで多くの研究において、体性感覚刺激が感覚野へ及ぼす影響について検証されてきました。しかし、我々の研究グループが開発した水流刺激による効果については、明らかになっていませんでした。本研究の結果は、水流刺激が大脳皮質一次体性感覚野の神経興奮・抑制バランスを変化させる有効な手法の一つになる可能性を示しています。今後、運動学習や神経適応に着目して、水流刺激の応用可能性について調べていきたいと考えています。

研究の背景

正常な体性感覚機能は、細かい手先の動作や運動技能、運動学習などに関与しており、私たちが不自由なく日常生活を送るために欠かせない機能の一つです。体性感覚機能の向上には、一次体性感覚野の興奮性活動と抑制性活動のバランスが重要な役割を担っていることが報告されています。これまで、一次体性感覚野の興奮抑制バランスを変化させるために、指先や手首といった狭い範囲への持続的な末梢体性感覚刺激が用いられてきました。近年では、手のひらへの水流刺激が運動を司る一次運動野の興奮抑制バランスを変化させることが明らかとなっており、広範囲に持続的な体性感覚刺激を行うことができれば、より大きな効果を得られる可能性があります。しかし、手のひらへの水流刺激が、一次体性感覚野の興奮抑制バランスを変化させるかどうかについては分かっていませんでした。
そこで、私たちは、4つの異なる刺激方法を用いて、手のひらへの水流刺激が、一次体性感覚野の抑制性活動が変化させるかどうかを調べました。

研究内容と成果

本研究では、4つの刺激介入条件を設定し、各刺激介入の前後で一次体性感覚野の興奮抑制バランスを測定しました。条件は、①刺激を行わない条件(Control)、②指先への反復的な高頻度刺激を行う条件(HF-RSS)、③前腕を水に浸ける条件(Whole-hand WI)、④手のひらへの水流刺激(Whole-hand WF)とし、介入時間は15分間としました(図1)。一次体性感覚野の興奮抑制バランスを測定するために、右手首の正中神経に1発または2連発の末梢電気刺激を与えました。1発の刺激によって得られる神経活動は、一次体性感覚野の興奮性活動を評価することができ、2連発の刺激を与えることで得られる反応は、抑制性活動を評価することができます(図2)。
本研究の結果、刺激条件による一次体性感覚野の興奮抑制バランスの変化の違いは認められませんでした。しかし、刺激介入前に一次体性感覚野の抑制性活動が低下している(脱抑制している)人ほど、手のひらへの水流刺激によって抑制性活動が高まることが明らかとなりました(図3)。この結果は、ジストニアや線維筋痛症、統合失調症などの神経疾患患者でみられる興奮抑制バランスの異常を改善できる有効な手段に成り得る可能性を示唆しています。神経疾患は、興奮抑制の神経活動バランスの異常によって引き起こされ、それにより、体性感覚機能の低下も認められています。本研究結果を踏まえると、神経疾患の興奮抑制バランスの異常、特に、抑制作用の低下を改善できる可能性が考えられます。

今後の展開

本研究では、刺激前の一次体性感覚野の抑制作用が低下している人ほど、水流刺激によって、抑制作用が強化されることが明らかとなりました。しかし、全体として、水流刺激や電気刺激による興奮抑制バランスの変化は認められませんでした。この結果は、刺激介入時間が短いことが要因の一つである可能性が考えられ、今後の研究では、より長い時間の刺激介入が必要であると考えています。
 また、本研究では、水流刺激が様々な体性感覚機能に及ぼす影響までは検討することができませんでした。先行研究では、一次体性感覚野の興奮抑制バランスが体性感覚時間弁別閾値や二点識別弁別能力と関連性があることや、運動学習に重要な役割を果たしていることが報告されています。したがって、今後は、手のひらへの水流刺激が体性感覚機能や運動学習を変化させるかどうかについて研究を進めていきたいと考えています。

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図1:本研究の流れ

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図2:一連発刺激と二連発刺激

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図3:本研究の結果

掲載論文

【題目】
Effect of whole-hand water flow stimulation on the neural balance between excitation and inhibition in the primary somatosensory cortex.
(手部への水流刺激が一次体性感覚野の興奮抑制バランスに及ぼす影響)

【著者名】
Dat Le Cong, Daisuke Sato*, Koyuki Ikarashi, Tomomi Fujimoto, Genta Ochi, Koya Yamashiro

【掲載雑誌】Frontiers in Human Neuroscience doi: 10.3389/fnhum.2022.962936

Le Cong Datさん(大学院医療福祉学研究科、博士後期課程1年、スポーツ生理学ラボ、運動機能医科学研究所)
佐藤大輔教授(健康スポーツ学科スポーツ生理学ラボ、運動機能医科学研究所)