2021.10.21
渡邉拓さん(理学療法学科15期生,大学院博士後期課程1年,神経生理Lab、運動機能医科学研究所)の研究論文が、国際誌『Cerebral Cortex』に採択されました!!
Voxel-Based Morphometry(VBM)は,磁気共鳴画像診断装置(MRI)を用いて撮像されたT1強調脳画像の信号強度を基に,ヒトの脳構造を灰白質・白質・脳脊髄液に区分し,それぞれの容積を算出することが可能な脳構造画像解析手法です.このVBMは同一被験者に対して縦断的に用いることで脳灰白質容積の可塑的変化を検討することが可能であり,多くの先行研究にて一般的に用いられている手法ですが,ヒトの脳灰白質容積がどの程度変動するのかという基礎的な知見が欠けていました.そこで,私たちは若年健常成人における短期間の脳灰白質容積の変動性を検討するとともに,変動性に寄与すると予想される因子[性別および脳由来神経栄養因子(BDNF)遺伝子多型]が脳灰白質容積の変動性に及ぼす影響を検討しました.
その結果,ほとんどの脳領域(全47領域中46領域)において脳灰白質容積変動性は小さいことが明らかとなりました(ICC > 0.80).さらには,女性でBDNF遺伝子多型がVal66Val型の人の脳灰白質容積変動性はわずかに高い傾向がありました.以上の結果から,ヒトの脳灰白質容積変動性は小さく安定していますが,性別とBDNF遺伝子多型の影響を受けることが明らかとなりました.
VBMを用いた脳構造画像解析は,比較的簡単にヒトの脳構造を定量的に評価できることから多くの先行研究で用いられています.本研究結果は,このVBMの信頼性を裏付ける基礎的知見として重要であると考えています.
①対象は若年健常成人41名とし,約4か月(平均値 ± 標準偏差:114.5 ± 42.8日)の間隔を空けT1強調脳画像を縦断的に撮像した.脳灰白質容積の算出にはVBM法を用い,それぞれの総灰白質容積,総白質容積,脳脊髄液容積,47領域の局所脳灰白質容積を算出した.脳灰白質容積の変動性の指標には級内相関係数(ICC)およびTest-retest variability (%TRV)を用いた.
図1.VBM解析の流れ
②全47領域中43領域のICCはexcellent(ICC(1, 2) > 0.90),3領域のICC はgoodであったが(中心傍小葉:ICC(1, 2) = 0.813,被殻:ICC(1, 2) = 0.873,淡蒼球:ICC(1, 2) = 0.805),視床のICCのみmoderateであった(ICC(1, 2) = 0.694).また,各脳領域の%TRVの中央値は47領域中43領域(91%)で3%未満であったが,中心傍小葉,被殻,淡蒼球,視床の%TRVは3%以上であった.
図2.全47脳領域の脳灰白質容積変動性
③女性のVal66Val型は,男性のMet carrierと比較して脳灰白質容積変動性がわずかに高い傾向があった.
図3.脳灰白質容積変動性の違い
A) 女性 vs 男性,B)Val66Val型 vs Met carrier,C) 女性のVal66Val型 vs 女性のMet carrier vs男性のVal66Val型 vs 男性のMet carrier