2021.02.15
星 春輝先生(理学療法学科14期生,北斗病院)と大西秀明教授(理学療法学科,運動機能医科学研究所,神経生理Lab)の研究論文が『Brain and Cognition』に掲載されました!!
片側手指の運動は運動肢と反対側の大脳皮質から投射する外側皮質脊髄路だけでなく運動肢と同側の大脳皮質から投射する外側皮質脊髄路(非訓練側皮質脊髄路)の興奮性を変化させることが知られています.しかし,運動の種類や運動機能の改善が非訓練側皮質脊髄路興奮性に及ぼす影響は明らかになっていません.そこで本研究は,30名の被験者を対象にして掌握運動(単純課題)またはボール回し運動(複雑課題)を用いた運動練習前後の非訓練側皮質脊髄路興奮性を評価し,運動の種類が非訓練側皮質脊髄路興奮性に及ぼす影響を検証しました(実験1).また,運動練習後の運動機能の向上が乏しい15名の被験者を対象にして,1回目および2回目の運動練習後における非訓練側皮質脊髄路興奮性を評価し,運動機能の改善が非訓練側皮質脊髄路興奮性に及ぼす影響を検証しました(実験2).実験1の結果,単純課題群では,運動練習後の非訓練側皮質脊髄路興奮性が減弱したのに対し,複雑課題群では,運動練習前後の非訓練側皮質脊髄路興奮性に有意な変化は認めませんでした.しかし,複雑課題群では運動機能の改善率と非訓練側皮質脊髄路興奮性の変化率との間に有意な負の相関を認めました.実験2の結果,運動機能の向上が乏しい段階(1回目の運動練習後)では非訓練側皮質脊髄路興奮性が増大していたのに対し,運動機能が大きく向上した段階(2回目の運動練習後)では非訓練側皮質脊髄路興奮性に有意な変化は認めませんでした.本研究では,運動課題の種類や運動機能の改善が非訓練側皮質脊髄路興奮性に影響を及ぼすことを実証しました.
本研究は,運動練習に用いる運動課題の違いや運動機能の改善の程度によって運動練習後の非訓練側皮質脊髄路興奮性が変化するかどうかを検証した内容となります.本研究の結果,単純な運動課題は運動練習後の興奮性を減弱させることが明らかになりました.また,複雑な運動課題を用いた場合,運動機能の改善の程度に依存して興奮性が変化することが明らかになりました.運動練習に伴う運動機能の変化は小脳や大脳基底核など広範な脳領域の活動と関連していることが知られているため,今後はより広範な脳領域と非訓練側皮質脊髄路興奮性との関係性を検討し,運動機能の変化と神経生理学的な変化との関係性の解明に繋げたいと考えています.
①実験1では,健常成人30名を対象に,掌握運動(単純課題)またはボール回し運動(複雑課題)を用いた運動練習前後の非訓練側皮質脊髄路興奮性を測定しました(図1A).実験2では,健常成人15名を対象に2回の運動練習(ボール回し運動)を実施し,各運動練習前後の非訓練側皮質脊髄路興奮性を測定しました(図1B).
②各条件における運動練習前後の非訓練側皮質脊髄路興奮性を比較したところ,複雑課題を実施した群では運動練習前後の非訓練側皮質脊髄路興奮性に有意差は認められませんでしたが(図2A: Baseline_1: P = 0.373; Baseline_2: P = 0.525),単純課題を実施した群では運動練習後における非訓練側皮質脊髄路興奮性の減弱を認めました(図2B: P = 0.026).
③各条件における運動機能の変化率と非訓練側皮質脊髄路興奮性の変化率を比較したところ,複雑課題を実施した群では,運動機能の変化率と非訓練側皮質脊髄路興奮性の変化率との間に有意な負の相関を認めました(図3A: r = − 0.610, P = 0.016).一方,単純課題を実施した群では同様の関係は認められませんでした(図3B: r = − 0.060, P = 0.831).
④実験2の結果,1回目の運動練習後では運動練習前と比較して運動機能の有意な改善は認めませんでしたが,2回目の運動練習後では運動機能の有意な改善が認められました(図4A: Pre-training: P < 0.001; Post-training_1: P = 0.010).また,1回目の運動練習後では運動練習前と比較して非訓練側皮質脊髄路興奮性の有意な増大を認めましたが(図4B: Baseline_1: P = 0.013; Baseline_2: P = 0.007),2回目の運動練習後では非訓練側皮質脊髄路興奮性に有意な変化は認めませんでした(図4B: Baseline_1: P = 0.659; Baseline_2: P = 0.369).