アイシングによる関節可動域の増加には筋硬度・脊髄興奮性の変化は関連しないことを解明 - 新潟医療福祉大学 研究力

新潟医療福祉大学 研究力

2020.08.23

研究者 清野 涼介

アイシングによる関節可動域の増加には筋硬度・脊髄興奮性の変化は関連しないことを解明

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清野涼介さん(理学療法学科15期生、大学院修士課程2年、応用理学療法Lab、運動機能医科学研究所)の研究論文が、国際誌『Sport Sciences for Health』に掲載されました!

スポーツの現場で用いるアイシングを題材にした研究となっております。
研究の詳しい内容については以下をご覧ください。

研究内容の概要

臨床やスポーツ現場においてアイシングが多く用いられています。
期待される効果として鎮痛や炎症の鎮静などが挙げられます。
この効果に加えて、イメージとは異なりますが、アイシングを行うと関節の柔軟性(関節可動域)が増加することが報告されています。
また興味深いことに、筋硬度は増加し、脊髄の興奮性も変化する可能性が述べられています。
しかし、これまでの研究ではこれらの変化について詳細に検討はされていませんでした。
また、臨床現場でのアイシング適応を考えると、関節可動域を増加させるための時間を明らかにすることも重要なことだと考えています。
そこで本研究は以下のように目的を2つ設けました。
1つ目はアイシング介入の経時的変化を観察し、その効果(特に関節可動域の増加)が生じる実施時間の検討をすること、2つ目に筋の硬さと筋温、脊髄興奮性の関連を明らかにすることとしました。

その結果、アイシング開始5分後より関節可動域は有意に増加することが明らかとなり、5分間のアイシングでも十分であると考えられます。
また、そのほかの数値の変化に関しては、筋硬度はアイシング開始10分後に有意に高い値を示しましたが、脊髄興奮性の変化は認められませんでした。
一方、筋温はアイシング開始10分後より有意に低い値を示しました。
これらの結果より、アイシングによる筋硬度の増加には、脊髄興奮性の増加ではなく、筋肉の温度の変化(減少)が関与している可能性が示されました。
本研究の成果は「Sport Sciences for Health」に掲載予定です。

清野さんからのコメント

アイシングはRICE処置にも含まれる代表的なコンディショニングツールです。主に炎症の鎮静などが期待され実施されますが、近年、関節可動域を増加させることが明らかにされています。この因子として筋の伸張時に発生する伸張感や痛みへの耐性(慣れ)の増加が挙げられている一方で、筋の硬さは増加することが報告されています。この筋の硬さを増加させる因子として寒冷刺激により筋の粘弾性が増加することが考えられています。しかしながら、表在寒冷刺激による筋の硬さが増加するメカニズムを検討した報告は見当たりませんでした。

また、上記の表在寒冷刺激の効果以外には脊髄興奮性を増加があります。そこで我々は脊髄興奮性と筋の硬さの変化に着目し、筋温は経時的に減少し、関節可動域と伸張刺激に対する体制は増加する一方で、脊髄興奮性が変化しないことを明らかにしました。この結果から、表在寒冷刺激による筋の硬さの増加に脊髄興奮性が関与しない可能性を示唆することとなり、メカニズム解明への有益な情報となることが期待できます。

本研究成果のポイント

① アイシングが脊髄興奮性に及ぼす影響を経時的に検討した点
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電気刺激を用いて脊髄興奮性の評価を行っております。

② 関節可動域、筋硬度、筋温の変化を経時的に検討した点
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アイシングによる関節可動域や筋硬度の増加に関連する因子を検討しました。

原著論文情報

Kiyono R, Sato S, Inaba K, Yahata K, Nakamura M. Time course of changes in range of motion, muscle shear elastic modulus, spinal excitability, and muscle temperature during superficial icing. Sport Science for Health [in press]

清野涼介さん(理学療法学科15期生、大学院修士課程2年、応用理学療法Lab、運動機能医科学研究所)