健康栄養学科1期生の北林 紘 さんと竹内 瑞希 助教がThe 8th Asian Congress of Dietetics(第8回アジア栄養士会議)においてACD2022 Excellent Poster Awardを受賞しました。
■受賞者:健康栄養学科1期生 北林 紘
[発表タイトル]
Association between Geriatric Nutritional Risk Index and Mortality of Japanese Older Patients in Long-Term Care Setting
[研究概要]
Geriatric Nutritional Risk Index(GNRI)は高齢者の栄養スクリーニングの1種であり、身長、体重、血清アルブミン値より算出されるスコアをもとに栄養状態を判定します。
GNRI=(1.489×血清アルブミン [g/dL]+[41.7× (実測体重 [kg]/ 理想体重*1 [kg])*2
*1: 本研究ではbody mass index 22 kg/m2に相当する体重を理想体重とした
*2: 実測体重/理想体重が1を超える場合は、1とする
判定: <82, major risk; 82-91, moderate risk; 92-98, low risk; 98<: no risk
GNRIは生命予後の指標となること、また、その簡易性から日本国内でも多くの研究で用いられています。しかし、国内の長期療養病床においても生命予後の指標となり得るかは検証されていません。また、GNRIは欧州で開発された指標ですが、栄養リスクの判定基準が日本人にも適しているのかについて検証が不十分です。本研究は、医療療養病床および介護療養病床の入院患者を対象にGNRIによる栄養評価を行ない、栄養リスクによる生存時間とno riskに対するlow risk、moderate risk、major riskの死亡ハザード比について解析を行ないました。
解析の結果、GNRIのno risk、low risk、moderate risk、major riskの間には有意な生存時間の差があることが認めました。しかし、no riskに対するlow risk、moderate risk、major riskの死亡ハザード比には有意な差は認められませんでした。本研究対象者のGNRIを4分位により4群に分類したところ、Q1、Q2、Q3、Q4には生存時間に有意な差を認めました。また、Q4はQ1と比較して有意な死亡ハザード比の上昇を認めました。本邦の療養病床においてもGNRIによる栄養評価は有効であると考えられるが、栄養リスクの判定基準は更なる検証が必要であることが示唆される結果となりました。
[コメント]
栄養評価の指標は数多く報告されていますが、海外から報告されたものがその大半を占めます。今回改めてGNRIが当院で有効な栄養スクリーニングとなるのか生命予後の観点から検証してみた結果、低スコアの者は生命予後が不良であることを明らかにしました。しかし、栄養リスクを判定するGNRIの基準については更なる研究が必要と考えています。本研究は単一施設で行なった研究であり、多施設共同研究も必要でしょう。同窓生の皆さんにもぜひご協力いただき、本邦の栄養管理プロセスをさらに発展させていくことが今後の目標です。
■受賞者:健康栄養学科 助教 竹内 瑞希
[発表タイトル]
Beneficial Effects of Synbiotics in Hemodialysis Patients with Poor Defecation Control
[研究概要]
血液透析患者では食事制限による食物繊維摂取不足、飲水制限による腸内の水分不足、薬剤の副作用などの要因から排便障害が高頻度に認められ、腸内細菌叢のバランスが乱れていることがわかっています。排便コントロールの悪化は患者のQOLに大きく影響を及ぼし、重篤な合併症にまで繋がると考えられています。腸内細菌叢の改善には、プロバイオティクス、プレバイオティクスの摂取が有効であると報告されており、現在、研究が進められています。プロバイオティクスとは、ビフィズス菌に代表される人体に有益に働く生きた微生物であり、腸内環境の正常化に寄与します。プレバイオティクスには、オリゴ糖や食物繊維などが挙げられ、プロバイオティクスの増殖や活性化を促進させます。そして近年では、両者を組み合わせた概念であるシンバイオティクスが注目されており、相互作用による腸内細菌叢改善の効果が期待されています。本研究ではシンバイオティクスの摂取が、血液透析患者の排便状況と腸内細菌叢に与える変化について検討を行いました。シンバイオティクス製剤を14週間摂取後、排便回数の増加が認められ、便形状はブリストルスケールスコアが改善され普通便に近づきました。さらに、排便困難感や残便感を有していた全患者において軽減が認められました。統計学的に有意な差は認められなかったものの、多様性指標である保有菌(属)の種類数では半数の患者で増加し、短鎖脂肪酸の指標においてもビフィズス菌、酪酸産生菌、乳酸菌の増加が認められました。
[コメント]
今回の研究では、シンバイオティクスの摂取は排便状態の改善に有効であることが示されましたが、腸内細菌叢については個人差が大きく著明な変化は認められませんでした。この点については引き続き検討していきたいと思います。血液透析患者様は排便コントロールの他にも複数の栄養の課題を抱えています。全てを網羅する栄養管理は負担が大きいので、本研究が少しでも排便障害の改善や排便によるストレスの軽減に繋がれば幸いです。
>>健康栄養学科についての詳細はこちら
https://www.nuhw.ac.jp/faculty/health/hn/
>>健康栄養学科のブログはこちらから
https://hn.nuhw.ac.jp/