新潟医療福祉大学(本学)佐宗亜衣子助教と東京大学の諏訪元特任教授ほか6名からなる研究グループは、日本の更新世人類化石の一つとされてきた「牛川人骨」について比較形態学的解析を行い、クマの骨であることを特定しました。今回の成果は「牛川人」がヒトではないことを明示するものです。本結果により、南西諸島出土の化石以外では、日本の旧石器時代に帰属するとされるヒト化石は、現時点では静岡県の根堅洞窟で発見された浜北人骨のみとなります。
図1:「牛川人」の上腕骨(A)と大腿骨頭(B)と見なされた化石(スケールは20mm)
研究について
発表のポイント
発表内容
「牛川人」は1957年と1959年に愛知県豊橋市牛川町で発見され、当時の年代解釈では中期更新世に遡る化石人骨と報告されました(文献1,2)。これまでも「牛川人骨」が動物骨である可能性は指摘されていましたが、何の動物のどの部分の骨かという点は不明でした。本研究では、「牛川人」化石(上腕骨の破片と大腿骨の骨頭)(図1)とクマの骨(ヒグマ11個体、ツキノワグマ13個体)を肉眼観察、ノギス計測、実体顕微鏡観察により比較しました。また、「牛川人」化石と一部の比較標本についてCT撮影し、断面画像と3次元モデルを用いた解析を行いました。これらの比較解析に基づく以下の形態学的評価から、今回の結論が導かれました。
これらの結果から、牛川で発見された「ヒト上腕骨」とされる化石は、実際にはクマの橈骨の一部であり、同じく発見された大腿骨頭の化石もクマの骨であることが確認されました。また、「牛川人骨」は2万年前頃以前の後期更新世のもので、その形態的特徴や同時期の哺乳動物群を考慮するとヒグマ(Ursus arctos)の骨である可能性が高いことがわかりました。この研究により、「牛川人骨」がヒトでないことが明らかになりましたが、「牛川人骨」の発見が日本人研究者たちによる、その後の古人類調査の発展に貢献したという学史的意義は変わらないと考えています。また、この骨は後期更新世の動物のものとしても貴重な資料であるといえます。
文献1:Suzuki H. and Takai S. (1959) Entdeckung eines pleistozänen hominiden Humerus in Zentral-Japan. Anthropologischer Anzeiger, 23: 224–235
文献2:鈴木尚(1963)日本人の骨.岩波書店,東京.
論文情報
論文タイトル:「牛川人骨」の部位・動物種別の特定と学史略考」
著者名:諏訪元、佐宗亜衣子、佐々木智彦、中村凱、遠藤秀紀、松浦秀治
掲載誌:Anthropological Science(Japanese Series)
[日本人類学会機関誌の和文版]
早期公開日:2024年12月1日(日)
DOI:https://doi.org/10.1537/asj.240917
研究助成
科研費「基盤A(課題番号:18H04007)」、「基盤B(課題番号:20H0137)」ほか
図2:現代日本人上腕骨(前面観)、「牛川上腕骨」(囲み枠内)、クマ橈骨(背側観)の髄腔形状と内外側方向の弯曲
図3:「牛川上腕骨」とクマの左橈骨の比較(背側面と断面)
図4:牛川の大腿骨頭化石とクマの大腿骨頭の大腿骨頭窩と骨端面の比較
【研究内容に関する問合せ先】
新潟医療福祉大学 自然人類学研究所
助教 佐宗 亜衣子(サソウ アイコ)
E-mail:saso@nuhw.ac.jp
東京大学総合研究博物館
特任教授 諏訪 元(スワ ゲン)
E-mail:gsuwa@um.u-tokyo.ac.jp
【報道に関する問合せ先】
新潟医療福祉大学入試広報部広報課(担当:伊藤)
TEL:025-257-4459
E-mail:kouhou@nuhw.ac.jp