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【心理健康学科】テニス上級者は“規則性”を使い、戦略的に相手を打ち負かす! 論文が国際的学術誌「Scientific Reports」に掲載!

2024.09.27 プレスリリース 研究情報

2024年9月27日
【報道関係者各位】
新潟医療福祉大学、名古屋大学、山梨大学、東京学芸大学

この度、学校法人新潟総合学園新潟医療福祉大学心理健康学科の山本裕二学科長、名古屋大学総合保健体育科学センターの横山慶子准教授、山梨大学大学院総合研究部教育学域の木島章文教授、東京学芸大学の奥村基生准教授、山梨大学大学院総合研究部生命環境学域の島弘幸教授は、共同して実施した実際の試合データの解析と数値シミュレーション実験で、テニスの上級者は相手との駆け引きにおいて、ラリー中に規則性を埋め込むことで、相手の予測を裏切る戦略を用いていることを明らかにしました。
この報告は2024年9月4日付けでNatureが刊行するオープンアクセスジャーナルであるScientific Reportsに掲載されました。また,新潟医療福祉大学・研究奨励金の助成を受けました。

新潟医療福祉大学心理・福祉学部心理健康学科
山本裕二 学科長

研究について
〈概要〉
ネット型対人競技では、必ずボールを交互に打球し、相手の打球に必ず対応しなければならないため、自らの打球コースで相手をコントロールすることも可能な競技と言えます。では、実際の試合において、選手たちはどういった配球をしているのでしょうか。また、そこには相手を打ち負かすどんな戦略があるのでしょうか。ソフトテニスの試合中の打球コースの系列を分析してみると、熟練者は中級者に比べて規則性をたくさん使っていることがわかりました。その規則性は左右交互が多かったのですが、この左右交互への打球によって、相手は少しずつ態勢を崩しているような運動の履歴が残っていました。そこで、こうした規則性の特徴を明らかにするために、打球コースとそれに対応するコート上の動きをシミュレーションにより解析したところ、中級者の規則性は熟練者よりもランダムに近い系列であることがわかりました。つまり、熟練者は自らが規則性を生み出すことで、相手にその規則性を予測させ、相手が規則性を予測した時点でその予測を裏切るような戦略をとっていると考えられました。
この研究は科学研究費補助金基盤研究(A)「対人運動技能の制御・学習則の解明(20H00572)」の支援のもとで行われました。

〈研究成果のポイント〉
1) 実際の試合中の打球コースに規則性があることを、リターンマップ分析で明らかにしたことです。そして打球コースの系列を並び替えたデータと比較することで、ゲーム中にはっきりとした規則性があることを示しました。

図1 典型的な打球コースの規則性。Aがショット角度の定義。上段(B-E)が打球コースの時系列。下段(F-I)がリターンマップ分析。Fの縦軸と横軸に、Bのショット系列2と3の角度と3と4の角度をそれぞれ異なる2点として、その2点を線で結びました。同じように、C、D、EからG、H、Iを書きました。これらの図から時系列をFからIまでの4つの規則性に分類することができます。

2) 相手の打球コースの規則性に対応してコート上を動くことで、履歴現象(フラクタル性)が見られます。その特徴は以前の実験結果(Yamamoto & Gohara, Hum Mov Sci, 2000)と同じでした。すなわち、実際の試合場面でも、全身を移動させることによる慣性が影響して、回転のあるカントール集合(自己相似図形)で予測される運動の履歴現象が示されました。

図2 Aはコート上の動きの定義で、極座標系でのコート上の位置(角度)とその接線方向の速度で表しています。Bはショット角度(L:左かR:右)が移り変わる確率(遷移確率:上)と、そうして打球コースが移り変わったときのコート上の動き(打球コースに対する動きの時間変化:下)。C、Dは移り変わりの4パタン(LからR、RからR、LからL、RからL)ごとに平均した軌道。Eは回転のあるカントール集合の2つの関数(左右)で、Fがその時間発展。X2のところがデータ(θ=π/2のグレーの面)と順番が一致しています。
*履歴現象とは、一つ前のボールが右と左で異なると、同じく右に来たボールを打ち返す動きが変わってしまう現象をいいます。図2FのX2では1球目が右で、2球目も右(RR)ならば上から2番目に来ていますが、1球目が左で2球目が右(LR)なら一番上に来ています。このように「今の入力」が同じでも、一つ前、あるいは2つ前の入力が違えば、「今の入力」に対する反応動作が異なってくることを表します。

3) ショット角度の系列に応じたプレーヤーのコート上の動きを数理モデルでシミュレーションした結果、中級者のショット角度系列は上級者と比較して「でたらめ」に近いことが明らかになりました。この結果から、中級者はその都度,自分のやりたいことをでたらめにやる傾向が高く,反対に上級者は規則性をうまく使いながら相手と駆け引きをしていると考えました。


図3 Aはショット角度が右-右と移り変わる確率(横軸)と、左-左と移り変わる確率(縦軸)を変更しながら計算した相関次元。完全にランダムでは、図の中央(0.5-0.5)に来る。B-Eは4つの遷移確率(上段)におけるポアンカレ断面(図2D)のフラクタル図形(中段)と相関次元(下段)


*規則性:「右→左→右→」と5番目まで来たら、あなたは6番目はどっちが来ると思いますか?これが規則性を作って、相手に次を予測させる規則性を利用した戦略です。

 

 

論文情報
Yamamoto, Y., Yokoyama, K., Kijima, A., Okumura, M. & Shima, H. (2024). Interpersonal strategy for controlling unpredictable opponents in soft tennis. Scientific Reports, 14, 20546, DOI: 10.1038/s41598-024-71538-5

【研究に関する連絡先】
◆新潟医療福祉大学広報課(担当:石津)
TEL:025-257-4459
Mail:kouhou@nuhw.ac.jp