藤本 知臣講師 (健康スポーツ学科・スポーツ生理学Lab・運動機能医科学研究所所属) らの研究論文が国際誌
「International Journal of Sports Physiology and Performance」に採択されました!
【研究内容の概要】
海や湖などの屋外水中環境で行われるオープンウォータースイミング (以下、OWS) は世界中で多くの人に楽しまれています。特に、10 kmのOWS競技はオリンピック競技としても採用されており、海外では非常に人気が高い競技です。OWSはプールで行われる水泳競技とは異なり、非常に幅広い水温帯 (水温16-31℃) で競技が行われるため、プールより冷たい低水温下 (水温25℃以下) で競技が行われる場合には、寒さや低体温症によって競技をリタイアしてしまう選手が多くいることが先行研究において報告されています。
しかし、エリートスイマーはアマチュアスイマーよりも高い強度で運動しているため、身体内部で多くの熱産生を行っており、水温20℃以上の環境で実際に低体温症が生じうるかは明らかではありませんでした。
さらに、寒さによってリタイアした選手の多くは低体温症に陥っていない可能性があることも報告されており、リタイアにつながる強い寒さ感覚がどのような生理学的な要因によって引き起こされているかは明らかではありませんでした。そこで本研究では、エリートスイマーの10 kmのOWS競技中の体温変動と寒さ感覚について明らかにし、加えて寒さ感覚に関連する生理学的要因を検討しました。
本研究では、水温22℃の海洋環境で行われた10 kmのOWS中の体温変動や温度感覚をオリンピックや世界選手権などの出場経験を有する日本トップレベルのスイマーで測定しました。その結果、水温20℃以上における10 kmのOWSにおいてエリートスイマーの深部体温 (身体中心部の温度) はほとんど低下せず、エリートスイマーは低体温症になりにくい可能性が示唆されました。
また、ほとんど全てのスイマーで深部体温が上昇していたにもかかわらず、OWS後の寒さ感覚には大きな個人差が見られ、これには皮膚の冷たさに対する敏感さが影響していることが明らかになりました。
研究者からのコメント
本研究は、国内におけるOWSの普及や安全性・パフォーマンス向上のために日本水泳連盟OWS委員会、日本大学と共同で行った研究になります。
近年、感覚 (温冷感や不快感など) が運動パフォーマンスを制限する可能性が明らかになっています。
本研究から得られた知見は、エリートスイマーのハイパフォーマンス発揮のために皮膚感覚を変えうる寒冷順化トレーニングや、低水温におけるレースでリタイアが多いアマチュアスイマーに向けた安全性向上のための事前スクリーニング指標といった、感覚調節を基盤とした安全性・パフォーマンス向上策の開発につながると考えられます。
本研究成果のポイント
1. 日本代表レベルのオープンウォータースイマーにおいて、オリンピック競技としても採用されている10kmのオープンウォータースイミング競技中の深部体温 (身体の中心部の温度) を継続的に測定し、競技中の体温変動を明らかにした点。
2. プールで行われる水泳競技よりも一般的に低い水温で行われるオープンウォータースイミング競技において、競技のリタイアに関わる「寒さ感覚」に深部体温の変化よりも皮膚の冷たさに対する敏感さが重要なことを明らかにした点。
【文献情報】
Fujimoto T, Matsuura Y, Baba Y, Hara R. Thermal Sensation After the 10-km Open-Water Swimming in Cool Water Depends on the Skin’s Thermal Sensitivity Rather Than Core Temperature. Int J Sports Physiol Perform. 2023.
Ahead of Print. doi: 10.1123/ijspp.2023-0190
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