メタ解析による体性感覚トレーニング効果の検証

佐々木亮樹さん(本学博士課程修了生、神経生理Lab、現・神奈川県立保健福祉大学)と大西秀明教授(理学療法学科、神経生理Lab、運動機能医科学研究所)らの研究論文が国際誌に掲載されました!

研究内容の概要】

体性感覚は,日常生活における危険への感知や円滑な運動を遂行する上で欠かせない脳機能です.脳卒中後には,50―80%の高い頻度で体性感覚障害が出現することが知られております.しかし,体性感覚障害に対するリハビリテーションのエビデンスは,十分に示されていないのが現状です.持続的な体性感覚刺激は,体性感覚機能を一過性に高めることが明らかになっており,体性感覚障害に対するリハビリテーションの手段になることが期待されています.この体性感覚トレーニングを用いた研究は,2000年頃から始まっておりますが,その効果の検証は単一研究に留まっているのが現状です.そこで本研究では,メタ解析を駆使することで体性感覚トレーニングの効果を高いエビデンスの下で検証することとしました.本研究成果は,国際誌『Journal of NeuroEngineering and Rehabilitation』にOpen Accessで掲載される予定です.

研究者からのコメント】

左:佐々木亮樹さん(本学博士課程修了生、神経生理Lab、現・神奈川県立保健福祉大学)
右:大西秀明教授(理学療法学科、神経生理Lab、運動機能医科学研究所)

脳卒中では,50-80%の高頻度で体性感覚障害が生じます.しかし,その障害に対するエビデンスに基づいたリハビリテーション手法が普及していないのが現状です.そこで本研究では,メタ解析を使用することで体性感覚トレーニングの効果を健常者で検証し,今後は体性感覚障害を対象としたリハビリテーション戦略の開発を目指しています.本研究は,本大学,理学療法学科,神経生理Labの大西秀明教授らと修了生(現:神奈川県立保健福祉大学大学院)の佐々木亮樹研究員と行った共同研究になります.

本研究成果のポイント】

①本研究では,PROSPERO (https://www.crd.york.ac.uk/prospero/; registration number: CRD42023487471)にプロトコールを登録し,PRISMAガイドラインに準拠してメタ解析およびシステマティックレビューを実施しました.メタ解析及びシステマティックレビューに含めた文献の選定は,下記の手順で進めました.

図1. PRISMAフローダイアグラム.このダイアグラムは,どのようなプロセスで文献検索および選定が行われたのかを示しています.略語: RSS, repetitive somatosensory stimulation; SEP, somatosensory-evoked potential; SEF, somatosensory-evoked magnetic field; TPD, two-point discrimination.

②各研究の実験デザインの質をリスク・バイアス評価にて評価を行った.その結果,多くの項目で「いくつかの懸念」および「高いリスク」が示された.

図2. 該当した研究のリスク・バイアス評価.A) 体性感覚パフォーマンスに対するリスク・バイアスの評価.B)SEP/SEFに対するリスク・バイアスの評価.略語: SEF, somatosensory-evoked magnetic field; SEP, somatosensory-evoked potential.

③メタ解析の結果,持続的な体性感覚刺激を指先に与えることで刺激直下の二点識別閾値が低くなることが明らかになりました(二点識別能力が良くなる).しかしながら,予測値が0を含んでいることから,その効果には研究間で大きなバラツキがあることが明らかになりました.

図3. メタ解析による知覚学習効果の検証.刺激部位における二点識別閾値への体性感覚トレーニングの効果を示すフォレストプロットになります.この解析は39件の研究に基づいており,ランダム効果モデルが採用されました.平均効果量は-0.71で,95%信頼区間は-0.94から-0.48の範囲となっています.Z値は平均効果量がゼロであるという帰無仮説を検定しており,Z値が-6.07,P < 0.001であったため,有意水準0.05において帰無仮説は棄却されました.これは,同様の集団における平均効果量が0から有意に異なること,すなわち体性感覚トレーニングが刺激部位の二点識別閾値を有意に改善したことを示唆しています.予測区間(PI)は-2.02から0.60であり,同様の集団における真の効果量の95%がこの区間に収まると考えられます.略語: CI, confidence interval; PI, prediction interval; SMD, standard mean difference; TPD, two-point discrimination.

原著論文情報:Sasaki, R., Kojima, S., Saito, K., Onishi, H. (2025) Somatosensory training: A systematic review and meta-analysis with methodological considerations and clinical insights. Journal of Neuroengineering and Rehabilitation, In press.