小脳へのランダムノイズ刺激は,小脳興奮性を変化させず,運動学習や瞳孔径にも影響を及ぼさない!

川上紗輝さん(大学院博士後期課程3年、神経生理Lab、運動機能医科学研究所)と大西秀明教授(理学療法学科、神経生理Lab、運動機能医科学研究所)らの研究論文が国際誌に掲載されました!

研究内容の概要】

環境への適応やスキルの向上には運動学習が基盤となり,小脳抑制(小脳から一次運動野への抑制機能)の減弱は,運動学習に重要な脳の可塑的変化です.経頭蓋ランダムノイズ刺激(tRNS)は非侵襲的に脳の可塑的変化を誘導することが可能ですが,これまで小脳に対するtRNSが小脳抑制および運動学習に及ぼす効果は検討されていません.本研究では,小脳へのtRNSが小脳抑制,運動学習,さらには注意機能を反映する瞳孔径に及ぼす影響を検討しました.その結果,小脳へのtRNSは小脳抑制および運動学習に影響を与えないことが示されました.瞳孔径は運動学習段階に応じて変化しましたが,小脳へのtRNSによる影響は認められませんでした.本研究成果は,「Behavioural Brain Research」に掲載予定です.

研究者からのコメント】

左:川上紗輝さん(大学院博士後期課程3年、神経生理Lab、運動機能医科学研究所)
右:大西秀明教授(理学療法学科、神経生理Lab、運動機能医科学研究所)

本研究より,小脳へのtRNSは小脳抑制の減弱をもたらすことができず,運動学習や瞳孔径にも影響を与えないことが示されました.この結果には,小脳構造の複雑さや,被験者間の効果のバラつきが影響している可能性があり,小脳やtRNS手法の課題を示す重要な知見となりました.今後は,運動学習を促進させる非侵襲的脳刺激法の確立に向けて,刺激部位や刺激設定等を追及していく必要があります.

本研究成果のポイント】

①運動学習には視覚追従課題を用い(A,B),被験者は小脳へのtRNSまたは偽刺激を受けながら運動学習課題を実施しました(C).脳活動変化,運動学習率,瞳孔径変化を2群間で比較しました.

②小脳抑制,運動学習率は両群で有意差は認められませんでした(A, B).瞳孔径は両群ともに前半学習段階に比較して後半学習段階で減少しましたが,群間差は認められませんでした(C).

原著論文情報:Kawakami S, Inukai Y, Ikarashi H, Kamii Y, Takahashi H, Miyaguchi S, Otsuru N, Onishi H. No effects of cerebellar transcranial random noise stimulation on cerebellar brain inhibition, visuomotor learning, and pupil diameter. Behav Brain Res. 2024. 475:115209. doi: 10.1016/j.bbr.2024.115209