7/1勉強会

【研究報告】

担当:飯室さん

タイトル:一次体性感覚野をターゲットとしたTISによる皮質活動の変化-MEGを用いた解析-

  • 背景・目的:新たな非侵襲的な脳刺激手法として時間干渉波刺激(Temporal interference stimulatioin:TIS)が2017年にcell誌で報告されて以降,注目を集めている.TISは,頭皮上に設置した2対の電極に周波数が異なる高周波の電流を付与する(例:2000Hzと2010Hz).すると,2つの電流が脳深部で限局的に干渉を起こし,各周波数の差分(10Hz)で振動する包絡変調が生じ,標的とした領域に対して任意の周波数(10Hz)での刺激を可能とする刺激法である.このTISが注目を集めている大きな理由としては,これまでの経頭蓋電気刺激では困難とされてきた脳の深部領域に対して非侵襲的かつ限局的な刺激を実現する可能性があるためである.しかし,このTISによる脳活動の変化を見た先行研究はfMRIを用いており,干渉周波数での脳活動の変調が起きているかについては明らかとなっていない.そこで本研究は,時間分解能に優れる脳磁場計測装置(MEG)を用いて,TISの前後における皮質活動を検証した.
  • 方法:被験者はG-powerを用いて設定し,健常成人52名(real群,sham群 各26名)を対象とした.TISのターゲットは一次体性感覚野とし,刺激パラメータは脳内電界シミュレーションを用いて設定した.シミュレーションの結果,電極貼付位置は電極①をC3-F3,電極②をP3-O1とし,電流比率は0.8 mA:1.2 mAとした.刺激周波数は2000 Hzと2010 Hz(干渉周波数:10Hz)で20分間刺激を行った(shamは両電極ともに2010 Hzその他はrealと同様).刺激前に5分間,刺激後に10分間の安静時脳活動をMEGで計測し,刺激前後でのα帯域のパワー変化を全脳で解析した.
  • 結果:TISの前後において,有意なα帯域のパワー値の増大は認められなかった.しかし,各被験者内において刺激の前後でパワー値の増大を示す被験者も存在した.
  • 結論:TISの前後において,有意な干渉周波数での皮質活動の変化は認められなかったものの,その効果には個人差があることが示唆された.

【文献抄読】

担当:巻渕さん

タイトル:Evoked oscillatory cortical activity during acute pain: Probing brain in pain by transcranial magnetic stimulation combined with electroencephalogram

出典:Martino et al., Hum Brain Mapp. 2024. 45:(6). doi: 10.1002/hbm.26679.

  • 目的:経頭蓋磁気刺激(TMS)と脳波(EEG)を用いて,急性疼痛が皮質oscillation活動に与える影響を調査することとした.
  • 方法:健常成人24名に対して,TMSとEEGを使用して急性疼痛刺激および非侵害性刺激に対する脳活動を測定した.TMSの刺激部位は一次運動野と背外側前頭前野とした.
  • 結果:急性疼痛条件では非侵害受容性疼痛と比較して、M1への刺激ではα帯域の振動パワーと位相同期を局所的および遠隔的に減少させ,これらの減少は温熱および疼痛閾値と相関していた.一方,DLPFCではβ1帯域のパワーのみが減少した.
  • 考察・結論:急性疼痛がM1領域のα帯域振動に影響を与えることを示した.一方,DLPFCでは,β1帯域のパワーのみが減少し,痛みの処理にはM1と異なるメカニズムが関与していることが示唆された.本研究の結果は,αおよびβ帯域振動が痛みの認識と制御において重要な役割を果たす可能性があることを示している.