6/10 勉強会

【研究報告】

担当:山本 (峻) さん

タイトル:経皮的迷走神経刺激が反応抑制機能に与える効果

  • 背景・目的:外部からの刺激に基づき実行中の運動を即座に停止する機能を反応抑制機能という.この機能には脳内神経伝達物質であるノルアドレナリン(NA)が関与し,中枢性NAを増加させる薬剤を投与することで,ADHD患者および健常者の反応抑制機能を改善させることが明らかになっている.しかしながら,この薬剤には悪心や腹痛,頭痛などの副作用が生じることがあり,簡便に使用することが困難であることが考えられる.そこでNAを増加させる非侵襲的な刺激方法である経皮的迷走神経刺激(tVNS)に着目した.tVNSは中枢性NAの主要な供給源である青斑核を活性化させることができ,脳の広範にNAを放出することが示唆されている.以上から,tVNSによって反応抑制機能を向上させる可能性があるが,未だ不明である.そこで本研究は,tVNSがNAおよび反応抑制機能に与える効果を明らかにすることを目的とした.また,tVNS後にNAが増大し,反応抑制機能が向上すると仮説を立てた.
  • 方法:対象は右利き健常成人男性20名(年齢21.4±1.7歳)とした.tVNS条件は,左耳甲介を刺激するtVNS条件と左耳朶を刺激するsham条件とし,クロスオーバー比較試験とした.刺激強度は感覚閾値以上,疼痛閾値未満とし,25 Hzの頻度で30分間刺激した(30秒on/offの間欠的刺激).NA評価には唾液αアミラーゼ(sAA)を用いた.反応抑制課題にはストップシグナルタスク(SST)を用い,停止信号反応時間(SSRT)を反応抑制機能の指標とした.各条件介入前後にsAA評価とSSTを実施し,刺激前後の変化量(ΔsAA,ΔSSRT)を算出した.介入前後のsAA,SSRTの比較にはウィルコクソンの順位和検定を用いた.ΔSSRT,ΔsAAの相関分析として正規性に従うものはピアソンの相関係数,正規性に従わないものはスピアマンの順位相関係数を算出した.有意水準は5 %とした.
  • 結果:両条件とも刺激前後のSSRTに有意な変化は認められなかった(tVNS条件:p=0.332,sham条件:p=0.823).tVNS条件のみ介入後にsAAが有意に増加し(p=0.002),ΔsAAとΔSSRT(p=0.049,r=0.446)の間に有意な正の相関関係が認められた.
  • 考察:tVNS条件におけるsAAの増加は,NAの増加を示唆する.また反応抑制機能の向上にはNAが関与することから,tVNSによってNAが増加した被験者ほど反応抑制機能が向上した可能性が示唆された.

【文献抄読】

担当:高橋 (ひ) さん

タイトル:Gray matter volume of functionally relevant primary motor cortex is causally related to learning a hand motor task

出典:Cobia et al., Cereb Cortex. 2024. 34(5):bhae210. doi: 10.1093/cercor/bhae210

  • 背景・目的:運動学習により脳の構造学的特徴が変化することが明らかとなっている.しかしながら,特定領域の脳構造と運動学習との因果関係は明らかとなっていない.本研究では,構造MRIとfMRIを用いて,学習前の脳構造と運動学習の個人差の関係を明らかにすることとした.さらに学習前に関与する脳領域に対する低頻度rTMSをすると運動学習が阻害されるのかを明らかにすることで,脳構造と運動学習の関係を明らかにすることを目的とした.
  • 方法:対象は健常高齢者とし,対象者は運動学習前に構造MRIを撮像し,運動学習後にfMRIでの撮像を実施した.fMRIにて課題中の脳活動を計測し,活動している一次運動野(M1)の灰白質容積を算出した.
  • 結果:左M1の灰白質容積が大きい対象者ほど課題の学習率が良好であった.さらにrTMSを用いて左M1の皮質活動を低下させると学習が阻害することが明らかになった.
  • 結論:構造MRIとfMRIを組み合わせたアプローチにより,左M1が手指運動練習による巧緻性の向上を決定し,健康なヒトの脳では,脳の構造的資源が行動の変化能力を決定することを示唆している.