5/13 勉強会

【研究報告】

担当:星先生

タイトル:腰背部への経皮的静磁場刺激が脊髄神経活動に及ぼす影響

  • 背景・目的:経頭蓋静磁場刺激(tSMS)はネオジム磁石が形成する静磁場を利用した新しい非侵襲的脳刺激法であり,磁石直下の神経活動を抑制できることが知られている.一方で,tSMSが形成する磁場は距離に依存して減弱することが知られており,深部領域への刺激は困難であった.近年,深部刺激用の新しい静磁場刺激法(シン磁場)が開発されたが,シン磁場が深部領域の神経活動に及ぼす影響は明らかになっていない.そこで本研究では,シン磁場が脊髄の神経活動に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.
  • 方法:健常成人19名を対象に計測を行った.脊髄神経活動の指標にはH反射と体性感覚誘発電位(SEP)を用いた.H反射は右脛骨神経に対する電気刺激によって右ヒラメ筋から誘発される筋活動から計測した.SEPは右後脛骨神経への電気刺激によって誘発される脳波から計測した.H反射およびSEPは介入の前後,介入15分後に計測した.介入条件はシン磁場を実施する条件(real条件)と,シン磁場と同じ外観の非磁性デバイスを使用する条件(sham条件)の2条件とした.各条件ともに介入時間は20分間とし,介入前後および条件間で振幅値の変化を比較した.
  • 結果:real条件では介入前および介入15分後と比較して介入直後に有意なH反射の減弱を認めたが,sham条件では介入前後で有意な変化を認めなかった.SEPにおいては両条件共に介入前後で有意差を認めず,条件間でも有意差は認めなかった.また,被験者1名のMRI画像を用いて,脊髄に対する磁場の空間分布をシミュレーションしたところ,脊髄内の磁場強度は40-70mTであった.
  • 結論・今後:静磁場は神経細胞膜の構造に作用すると考えられており,神経生理学的作用を及ぼすための最小強度は40mTと報告されている.したがって,脊髄へのシン磁場刺激は,脊髄内の神経細胞に作用を及ぼし多ことでH反射を減弱させたと考えられる.一方,後根神経節(DRG)は脊髄よりも外側に位置していることから,シン磁場はDRGに対して十分な磁場を形成できなかったためSEPに変化が見られなかったと考えられる.

【文献抄読】

担当:櫻井先生

タイトル:Structural differences in the cortex of individuals who experience the autonomous sensory meridian response

出典:Jennifer et al., Brain Behav. 2023 13(2):e2894. doi: 10.1002/brb3.2894

  • 目的:ASMR経験者と非経験者の大脳皮質の厚さと複雑さ,溝深さ,回状化を測定することにより,ASMRが独特の神経形態と関連しているか調査することである.
  • 方法:ASMR経験者(17名)と非経験者(17名)の2グループにわけ 3テスラMRIでMPRAGEを撮像した.解析はツールボックスCAT12を使用して脳の表面構造の差異を評価した.
  • 結果:ASMR経験者は非経験者と比較して左半球で4つの領域,右半球で5つの領域で皮質が有意に減少していた. また複雑さも左半球の1つの領域で低下がみられた.
  • 結論:皮質の厚さと複雑さの違いは,ASMR体験に関連する機能を持つ脳領域で見られた.これらには,音韻処理,感覚運動機能,注意に関連する神経領域が含まれる.