4/8 勉強会

【研究報告】

担当:五十嵐 (小) 先生

タイトル:月経周期における食物に関連した行動抑制機能の変化について

  • 背景・目的:摂食行動は生存に不可欠であるが,異常な摂食行動を引き起こすと心身の健康に悪影響を及ぼす.特に,女性においては月経周期によって摂食行動が著しく変化することが知られている.しかし,その原因やメカニズムは明らかでない.摂食行動は,恒常性調節と快楽性調節によって制御されている.恒常性調節は,エストラジオールやプロゲステロンの働きによって変化することが多くの研究で明らかとなっている.一方,快楽性著説は,月経周期による報酬系の神経活動の変化について検討されてはいるものの,未だ不明な点が残されている.このことから,恒常性および快楽性調節の変化が直接的に異常な摂食行動を引き起こすというよりも,異常な摂食行動を引き起こす原因となる行動(行動抑制機能)が変化している可能性が考えられる.実際に,肥満者や拒食症の患者では,食物刺激に対する行動抑制機能が障害されることが報告されている.本研究では,視覚的な食物刺激に対する行動抑制機能に着目し,この機能が月経周期によって変化するか否かを明らかにすることを目的とする.また,食物に関連した行動抑制機能は,排卵期に向上し,黄体期に低下すると仮説を立てた.
  • 方法:正常月経周期を持つ健常成人女性30名を対象とし,月経期・卵胞期・排卵期・黄体期にFood-related stop signal task(Food-SST)を実施する.Food-SSTは,高カロリー食品(HC)条件,低カロリー食品(LC)条件,ニュートラル(Neutral)条件の3条件とする.行動抑制機能は,stop signal reaction time(SSRT)を算出して評価する.
  • 結果:いずれの条件もデータ数が少なく統計をかけることができなかった.しかし,高カロリー食品に対する行動抑制機能は,卵胞期と比較して排卵期と黄体期に低下している様子が伺えた.低カロリー食品に対する行動抑制機能は,排卵期に向上し,黄体期に低下している可能性がある.
  • 考察:月経周期における行動抑制機能は,食品の違いによって異なる可能性がある.また,LC条件における黄体期の低下は,黄体期の高カロリー食品摂取の増加の代償的行動を反映しているのかもしれない.

【文献抄読】

担当:齊藤 (慧) 先生

タイトル:Cortical maps of somatosensory perception in human

出典:Ryun et al., Neuroimage. 2023 276:120197. doi: 10.1016/j.neuroimage.2023.120197

  • 目的:Direct cortical stimulation(DCS)とstereo EEGを用いたECoG計測を組み合わせて,触覚と運動に関連した感覚に関与する神経ネットワークを時間的・空間的に明らかにする.
  • 方法:(1)DCS study:対象者は皮質機能mappingのために硬膜下電極の植え込み術を受けた51名とした.対象者にはDCSによって生じた感覚とその部位を口頭にて回答させた.(2)sEEG study:対象者は難治性てんかん患者46名とした.対象者には手指握り込み課題や肘関節屈曲課題などの運動課題と手指での素材識別課題,振動刺激の識別課題を実施させ,その際の脳律動活動を計測した.
  • 結果:DCS studyにおいて,一次体性感覚野と上頭頂小葉,運動前野を刺激したときに運動に関連した感覚が惹起され,一次体性感覚野と二次体性感覚野,下頭頂小葉,上頭頂小葉,運動前野を刺激したときに触覚が惹起された.sEEG studyにおいて,運動課題を行ったときには一次体性感覚野と一次運動野,上頭頂小葉,運動前野,識別課題を行ったときには一次体性感覚野と一次運動野,上頭頂小葉,運動前野,下頭頂小葉,二次体性感覚野の興奮性が増大した.
  • 結論:一次体性感覚野や上頭頂小葉,腹側運動前野などは触覚と運動に関連する感覚情報処理に関与するが,それぞれの感覚情報を特異的に処理する皮質領域も存在することが明らかになった.