12/18 勉強会
【研究報告】
担当:菊元先生
タイトル:足関節捻挫を繰り返す慢性足関節不安定症は膝前十字靭帯損傷の危険因子となるか?
- 目的:慢性的な足関節の不安定感を呈する慢性足関節不安定症(Chronic Ankle Instability:CAI)は,膝前十字靱帯(Anterior Cruciate Ligament:ACL)損傷のリスクが高まると考えられる.ACL損傷の既往を有する33名の選手のうち,52~60%が足関節捻挫の既往を有しているとの報告もあり,足関節捻挫とACL損傷は疫学的に関連が認められている.慢性足関節不安定症は,関節位置覚の低下や腓骨筋反応時間の遅延,足関節周囲の筋力低下,姿勢制御能力の低下など,病理機械的障害を前提とした運動行動障害が報告されている.これらが要因となり,ACL損傷の好発動作である着地動作時において,ACLへのストレスが増すことにより発症していると考えられる.そこで本研究は,ACL損傷の好発動作である片脚着地に着目し,足関節の病理機械的障害を前提とした運動行動障害が,着地時の膝関節へ与える影響を検証することを目的とした.
- 方法:International Ankle Consortiumの選定基準を用い,CAIの選定を行った.加えて,超音波画像診断装置を用いて腓骨外果と距骨を描出し,Telos stress deviceを使用し130Nのストレス時と静止時の値を用いた離開率を算出することで,足関節の病理機械的障害の有無を確認した.その際,長腓骨筋と前脛骨筋,内側腓腹筋の筋活動を,無線筋電図計(DELSYS Trigno:DELSYS 社製)を用いて計測し,防御性収縮がないことを確認した. 次に,三次元動作解析装置(VICON:Oxford Metrics社製)と床反力計(OR6-6-2000:AMTI社製)を用い,前方跳躍の片脚着地時における膝関節角度と膝関節モーメントを計測した.サンプリング周波数は三次元動作解析装置で250Hz,床反力計は1,000Hzとした.反射マーカーを下半身に計24個を貼付し,Rigid Body markerを大腿部,下腿部に計16個貼付し,骨盤,大腿,下腿,足部セグメントを定義した.課題動作を前方への跳躍とし,最大跳躍距離の80%を着地位置とし,片脚着地を5試技実施し,ACL損傷が発生する着地後100msecまでの平均値を代表値として算出した.また,初期接地(IC)は垂直床反力成分が10N以上になった地点とした.
- 結果:腓骨外果と距骨離開率の有無による,最大床反力値,IC時の足関節背屈角度と膝関節屈曲角度,足背屈モーメントと膝伸展モーメントに大きな差を認められなかった.一方で,IC時から100msecにおいて,離開率が低値の被験者に比して高値の被験者では,脛骨内果の矢状面上の動きが高値となった.また,離開率が低値の被験者に比して高値の被験者では,脛骨粗面の矢状面上の動きが低値となった.
- 結論:病理機械的障害を有した足関節での着地動作では,遠位部の下腿セグメントである脛骨内果が前方へ過度に移動し,近位部である脛骨粗面の前方移動量が低値を示した.本結果は,下腿セグメントが地面に対して垂直位での着地を行っていることを意味し,より膝関節が浅屈曲位となりACL損傷の危険因子の報告と一致している.病理機械的障害を有した足関節は,ACL損傷へと繋がる危険肢位での着地動作を行っている可能性が高い.
- 今後:矢状面上のみならず,下腿セグメントの三次元の動きを検証し,ACL損傷に繋がるメカニズムの検証を進めて行きたいと考えている.
【文献抄読】
担当:大河内さん
タイトル:On the origin of F-wave: involvement of central synaptic mechanisms
出典:Özyurt et al., Brain, 2023, awad342. doi: 10.1093/brain/awad342IF: 2.2 Q3 B3
- 背景:現在末梢神経刺激によって計測されているF波は,末梢神経障害や脊髄興奮性の指標として,臨床現場および研究領域において用いられている.しかし,F波生成に関するメカニズムは完全に解明されてはいない.筆者らは,F波は現在広く浸透しているメカニズムによって生成されているのではなく,軸索刺激による電気刺激がリカレントループを介して別の運動単位へシナプスする経路が存在し,その経路によって隣接する運動単位を興奮させた結果生じているという仮説の下,マウスを用いた実験を行った.
- 方法:生後1~3日のマウス11体を用いて,ex vivo実験を行った.また,脊髄後角切除パッチクランプは生後5~13日のマウス10体を用いた.
- 結果:記録電極と同一の脊髄レベルの軸索を刺激した場合,逆行性スパイクが順行性スパイクを阻害してしまっているような波形が見られたが,細胞体の静止膜電位を過分極させて再度記録した結果,順行性スパイクが生成はされていた.続けて,シナプス伝達を阻害するようにシナプス前膜,後膜を阻害するとF波は生成されなかった.
- 考察・結論:本研究から,F波はリカレントループを介した別の運動単位への経路が生成していることを支持する結果となった.また,このF波の生成メカニズムによっても現在までと同様に,臨床現場や研究領域でのF波を用いた神経学的な解釈を行うことが可能である.