11/6 勉強会

【研究報告】

担当:田宮先生

タイトル:長時間の座位中の下肢運動は腓腹筋の酸素抽出障害を防ぐ

  • 背景:長時間の座位は代謝障害や血管障害を誘発することが知られている.しかし,毛細血管と筋肉間の酸素運搬(筋酸素抽出)への影響は不明である.
  • 目的:長時間の座位が腓腹筋の酸素抽出に及ぼす影響と予防法を明らかにすることである.
  • 方法:参加者は12名の健康な若年男性であった.研究デザインは無作為クロスオーバーデザインで,2つの実験を行った.研究1は,3時間の仰臥位(CON)と座位(SIT)の比較であった.研究2は,3時間の座位(SIT)と座位中の下肢運動条件(ACT)から構成された.1時間に1回,組織酸素飽和度(StO2)のベースライン評価を記録し,その後空気カフを5分間膨張させた.閉塞期のStO2低下に対する反応から曲線下面積を算出し,これを筋酸素抽出の指標(StO2 AUC)とし,比較検証を行った.
  • 結果:CON条件下とSIT条件下のStO2 AUCの間に有意な交互作用があり,SIT条件下では有意に低い値であった(CON;78925.2±1342.1 vs. SIT;42090.0±1139.2 a.u., p<0.01).また,SIT条件下とACT条件下の間にも有意な交互作用があり,ACT条件下では有意に高値を示した(SIT;49773.4±1405.9 vs. ACT;62214.0±1860.0 a.u., p<0.01).
  • 結論:長時間の座位により誘発される腓腹筋の酸素抽出障害は,下肢運動により抑制できる.

【文献抄読】

担当:山本さん

タイトル:Don’t plan, just do it: Cognitive and sensorimotor contributions to manual dexterity

出典:Bonzano et al., NeuroImage, 2023, 280:120348. doi: 10.1016/j.neuroimage.2023.120348

  • 背景と目的:手先の器用さには感覚運動領域だけでなく認知領域との関連も想定される.手先の器用さが求められる課題を行うと,高齢者では感覚運動皮質以外に前頭前野も活性化するが,若年者では主に感覚運動皮質が活性化し、全被験者で認知機能に関与する前頭前野の活性化が認められるわけではない.この背景を解明するために,手先の器用さの評価に用いる9-HPTと感覚運動領域が主に関与する1-HPTを実施した際の実行時間の比較と,皮質活性化を比較した.本研究の目的は,手先の器用さに関与する認知的要素の神経基盤を明らかにすることであった.
  • 方法:対象は右利き健常成人28人であり,9-HPTと1-HPTをそれぞれ3回ずつ実行し,課題ごとに実行時間を平均して算出した.2つの課題の実行時間の差(ΔHPT)を算出し、差が大きいグループ(HD群)と差が小さいグループ(LD群)に分けた.皮質活動の評価には,機能的近赤外分光法を用いて評価し、感覚運動野と前頭前野のオキシヘモグロビンの平均血行動態反応を解析した.また,課題後1週間以内に認知機能評価テストを行った.
  • 結果:HD群では9-HPTの実行時間が同群の1-HPTとLD群の両課題の実行時間と比較し有意に遅かった.また,HD群の被験者はLD群の被験者に比べ前頭前野領域の二つのチャンネルの活性化が認められ,課題に対して認知領域を活用していたことが示された.
  • 結論:手先の器用さを求められる課題の実行時間が遅い被験者では,認知機能に関与する領域が活性化することが示され,課題に対して認知的アプローチを用いていた可能性が示唆された.