10/23 勉強会

【研究報告】

担当:北谷先生

タイトル:左プリズム適応前後の空間性注意機能に姿勢制御の難易度が与える影響

  • 背景:健常者に対して視野が左に変位するプリズム眼鏡を装着して視覚運動適応を行うことにより,左半側空間無視様の現象が生じるが,プリズム適応による空間性注意機能に対する影響は不明確である.空間性注意機能は認知課題などの非空間性注意機能に対する負荷による影響を受けることが報告されているが,姿勢制御の難易度によりどのような影響を受けるのか明らかにされていない.
  • 目的:健常者を対象として,左プリズム適応前後の空間性注意機能に対する姿勢制御の難易度の影響を明らかにする.
  • 方法:若年健常者15名を対象として,左プリズム適応前後に床面上立位条件とバランスディスク上立位条件において,Posner課題による空間性注意機能評価を行った.
  • 結果:右空間に対する反応時間は床面上立位条件と比較してバランスディスク上立位条件においてプリズム適応前に遅延していたが,プリズム適応後にバランスディスク上立位条件における反応時間が改善し,プリズム適応後は右空間に対する反応時間に立位条件間で有意差は得られなかった.一方で,左空間に対する反応時間はプリズム適応前後ともに床面上立位条件と比較してバランスディスク上立位条件において遅延しており,プリズム適応による変化は生じなかった.
  • 結論:姿勢制御の難易度が高い条件において,プリズム適応前後に左右空間に対する反応時間に異なる変化が生じていた.

【文献抄読】

担当:小野さん

タイトル:Short-term balance consolidation relies on the primary motor cortex: a rTMS study

出典:Egger et al., Sci Rep. 2023, 13(1):5169. doi: 10.1038/s41598-023-32065-x IF: 64.8 Q1

  • 背景と目的:一次運動野(M1)では,わずか数回のバランス学習で構造的・機能的な適応が起こる.とはいえ,バランス課題の定着におけるM1の役割については,M1における適応が本当にバランス改善の原動力なのか,単にバランス改善の結果なのかが不明であるため,直接的な証拠が得られておらず,議論が続いている.本研究の目的は,一次運動野がバランス課題の学習と定着に関与しているかどうかを調べることである.
  • 方法:30人の参加者を反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)群とSham-rTMS群に無作為に割り付けた.実験デザインは,1回のバランス獲得段階,15分間の低周波rTMS(M1の関与を撹乱するため,安静時運動閾値の115%で1Hz)またはsham-rTMS,そして最後に24時間後の保持テストであった.
  • 結果:獲得期には,2群間でバランスの改善に差は観察されなかった.しかし,rTMS群とsham-rTMS群の間には,獲得期の終わりから保持テストまでに有意差が認められた.rTMS群ではパフォーマンスが低下したのに対し,sham-rTMS群では有意なオフラインでの向上が見られた(p = 0.001).
  • 結論:この発見は,M1の関与とバランス課題の獲得・定着との因果関係を初めて示唆するものである.