7/24 勉強会

【研究報告】

担当:山本先生

タイトル:打動作のダイナミクスから対人競合ダイナミクスまで

  • 緒言:複雑に見えるスポーツでの運動の仕組みを解明するために,力学系理論を援用している.力学系理論とは,時間変化する系を記述する理論的枠組みのことで,複雑系科学,自己組織化などの数学的枠組みであるとも言える.また,カオスやフラクタルといった,一見複雑に見える現象が単純な規則から生成されることで知られている.
  • 運動と力学系:運動の記述に力学系を援用したのは,Kelso, J. A. S.で,両示指の指振り運動において,運動周波数を増加させていくと,逆相同期(左右方向に運動方向がそろう状態)から,突然,同相同期(内外に運動方向がそろう状態)に変化する現象を,連結振動子の同期現象からからモデル化した.彼らのモデル(HKBモデル)は対人協応にも拡張されてきた.我々も,タグ鬼ごっこや剣道の攻防(詰め引き動作)において,同相同期(詰め―詰め,引き―引き)から逆相同期(詰め―引き)への学習による変化や,二者間距離に依存する相転移(同期の位相が突然切り替わる)を見出した.
  • 打動作の切替ダイナミクス:連結振動子のモデルは外部入力の変化が緩徐な自励系であるが,実際のスポーツでは時間的に変化する外部入力がある非自励系である.この外部入力による運動の切替を記述するのが切替ダイナミクスのモデルで,テニスのフォアハンドとバックハンドの打動作に適用したところ,外部入力のランダムな切り替えに応じて,回転のあるカントール集合(自己相似図形)の時間発展と一致する運動の履歴がみられた.このことから,打動作における回旋動作を獲得する方法として,左右交互練習が提案され,その有効性を検証した.
  • 対人運動技能の切替混合ダイナミクス:テニスのシングルスゲームにおけるショット角度系列とそれに対応したコート上の選手の動きが,切替混合ダイナミクス(離散力学系と連続力学系がフィードバック結合した切替ダイナミクス)で記述できることを明らかにした.つまり,シングルスゲームにおいては,お互いの出力が外部入力となり2つのシステムが結合していることから,結合切替混合ダイナミクスとして記述できた.さらに,ショット角度系列には規則性があり,熟練者は完全なランダムと完全な左右交互の狭間の規則性を用いることで,他者の予測を利用して攻撃していることを,シミュレーション実験から明らかにした.