6/26 勉強会

【研究報告】

担当:井上先生

タイトル:母指球筋に着目した骨格筋量指標の開発-3T高解像度MRIによる妥当性検証と地域在住中高齢者への応用

  • 目的:サルコペニア診断には骨格筋量測定が不可欠である.しかし,CTやMRI,DXA,BIAなどの既存の方法や測定部位では,被曝による侵襲や体内水分量,体内金属の影響を強く受け,病態によっては骨格筋量が正確に測定できないことが問題視されている.本研究の目的は,あらゆる病態を想定したサルコペニア診断へ展開することを目的に,手の「母指球筋」が新たな骨格筋量指標となるかを明らかにすることとした.
  • 方法:本研究は,研究①健常若年者を対象としたMRI研究,研究②地域在住中高齢者を対象とした超音波研究で構成した.研究①は健常男子大学生を対象とした.3テスラ高解像度MRIを使用し,利き手の母指球筋を撮像し(T2強調画像,スライス厚3mm,30スライス),母指球筋容量(cm3)を算出した.全身の骨格筋量の指標として大腿筋容量を算出した.その後,超音波画像診断装置を使用して,MRIで撮像した母指球筋容量を最も反映する筋厚計測部位を決定し,母指球筋厚(mm)と定義した.研究②では,新潟県佐渡市在住の40歳以上の地域在住中高齢男性を対象として,研究①で開発した母指球筋厚の妥当性を検討した.外的妥当性を分析するためにBIA法で測定した四肢骨格筋量を用いた.
  • 結果:研究①は7名(平均年齢21.0±00歳,平均BMI 21.2±1.7kg/m2))が解析対象となった.MRIで算出した母指球筋容量の中央値は20.1cm3(最小-最大:10.4-22.5cm3)であり,大腿筋容量と有意に相関した(r=0.80, P<0.01).超音波画像診断装置で計測した母指球筋厚の中央値は19.0mm(15.9-21.7mm)であり,母指球筋容量 (r=0.79, P<0.01),大腿筋容量(r=0.84, P<0.01)と有意に相関した.研究②は63名(平均年齢72.9±7.4歳,平均BMI 23±2.6kg/m2)が解析対象となり,母指球筋厚の中央値は18.0mm (14.6-22.1mm),四肢骨格筋量の中央値は21.9kg(12.8-31.4kg)であった.母指球筋厚をBMI補正した値(母指球筋厚/BMI)と四肢骨格筋量をBMI補正した値(四肢骨格筋量/BMI)は有意な相関を示した(r=0.33, P<0.01).
  • 結論:本研究の結果から,母指球筋指標が全身の骨格筋量を反映す新たなマーカーとなる可能性が示唆された.今後は,症例数の蓄積と女性の分析に加え,これまで正確な筋量測定が困難とされてきた下肢骨折の外科的治療後や下肢・体幹に浮腫を有する内部障害患者,全身に各種デバイスが接続された重症患者における妥当性を検証する必要がある.

【文献抄読】

担当:湯口さん

タイトル:Increasing spatial frequency of S-cone defined gratings reduces their visibility and brain response more than for gratings defined by L-M cone contrast

出典:Lownders et al., Vision Res, 2023. 207:108209. DOI: 10.1016/j.visres.2023.108209 IF: 4.996 Q2

  • 目的:ヒトの色覚は3色であり,3つの錐体(L,M,S)を持っている.この3つの錐体はL+M:無彩色チャネル,L-M:赤-緑チャネル,S-(L+M):青-黄チャネルの視覚経路を形成する.空間周波数が高くなると色の感度は低下すると言われている.ここでは,色刺激に対する行動と神経反応の両方に対する空間周波数の影響を明らかにすることを目的とした.
  • 方法:6名の正常色覚者を対象に,行動実験とfMRI実験を行った.刺激や背景の空間周波数を変えて提示された.
  • 結果: 空間周波数を2倍にすると感度が低下し,さらにS錐体のほうがL-M錐体に比べて感度の差が大きかった.BOLD反応を6つの視覚野(V1,V2,V3,V3a,hV4,TO1/2)で測定したところV1,V2,V4において空間周波数間に有意な相互作用がみられた.
  • 考察:高空間周波数のS錐体に対する感度の増加が網膜部位領域に反映されていることが示された.色検出課題における神経応答が一次視覚野の初期から観察できることを示す.