5/8 勉強会

【研究報告】

担当:齋藤先生

タイトル:PLOD2とインテグリンの水酸化反応に基づく新規がん浸潤・転移メカニズム

  • 目的:癌に高発現するリジン水酸化酵素PLOD2の機能を解明し,新しい癌治療の創薬開発に挑戦する.
  • 背景:リジン水酸化酵素PLOD (procollagen-lysine, 2-oxoglutarate 5-dioxygenase)ファミリーは,コラーゲン(唯一知られている基質)の水酸化に携わり,細胞外におけるコラーゲン分子間の架橋反応に必須な酵素である.現在までにPLOD2活性異常は骨形成異常や線維症に関与することが報告され,がん関連繊維芽細胞(CAF)の研究からもPLOD2高発現は,がん浸潤・転移を促進することが示唆されている.しかしながら,がん細胞自身における酵素活性や基質分子は不明であり,PLOD2(酵素)とIntegrin b1(新規の基質)の本研究は,浸潤・転移を促進する新規メカニズムとして初の報告となった.
  • 方法:異なる患者由来の口腔扁平上皮がん細胞株を用いて,PLOD2遺伝子ノックダウンによる細胞増殖および浸潤能について,各アッセイキットを用いて定量を行った.また,in vivoにおける浸潤性については,PLOD2 KO細胞をマウス胸腔内に移植し,がん組織の免疫組織染色等により確認した.さらに,PLOD2-Integrin b1の相互作用解析,活性測定および質量分析から,Integrin b1の水酸化を受けるアミノ酸配列を同定した.
  • 結果と考察:PLOD2はIntegrin b1を水酸化することが示唆された.Integrin b1の水酸化は,Integrin b1の安定性と細胞膜移行の両機能に必要であることがin vitro解析から判明した.さらに,口腔がん細胞の転移部位である肺において,PLOD2 KO細胞の浸潤性の低下がin vivo解析から認められた. 以上から,がん細胞において,Integrin b1はPLOD2の新しい基質であり,PLOD2-Integrin b1水酸化反応経路が,がん浸潤・転移に必須なシステムの1つである考えられる.また,このPLOD2-Integrin b1反応系を阻害する分子は,新たな転移制御薬の開発につながる制がん医療に貢献できると考えられる.