山代幸哉准教授(健康スポーツ学科,スポーツ生理学Lab,運動機能医科学研究所)の研究論文が,国際誌『Scientific Reports』に採択されました!
研究内容の概要:
一次感覚野や運動野への経頭蓋ランダムノイズ刺激(tRNS)は,皮質の興奮性を高めることで感覚運動機能を改善することが報告されてきた.しかし,tRNSを前頭皮質などの高次脳領域に適用した場合,反応抑制などの高次脳機能にはほとんど効果がないことが報告されている.このような矛盾は,tRNSが一次感覚野と高次脳領域の興奮性に異なる影響を与えることを示唆しているが,これは直接的には証明されていない.本研究では,事象関連電位(ERP)を同時に記録しながら,抑制性実行機能の指標である体性感覚および聴覚のGo/Nogo課題遂行に対するtRNSの鞍上脳領域への影響を検討した.16名の参加者に背外側前頭前野の偽刺激またはtRNS刺激をシングルクロスオーバーデザイン試験で行った.偽刺激とtRNSは,体性感覚と聴覚のNogo N2振幅,Go/Nogo反応時間,コミッションエラー率に影響を与えなかった.この結果からtRNSは,高次の皮質領域における神経活動を調節する効果が感覚野や運動野に比べて低いことを示唆している.今後の研究では,高次脳機能を高めるtRNSのプロトコールを探っていく必要がある.
研究者からのコメント:
脳刺激の方法の一つであるtRNSの効果は感覚野や運動野において,その他の脳刺激に比べて効果が高いと考えられてきた.しかしながら,高次脳領域への効果は一致しておらず,その作用機序も不明であった.本研究では,高次脳領域へのtRNSが少なくともその領域の脳活動を変化させず,脳活動と関係するパフォーマンスを向上しないことが明らかになりました.今後,より有効な脳刺激プロトコール開発の一助になると考えられます.
本研究成果のポイント:
偽の脳刺激と本物の脳刺激の前後に脳波とGo/Nogo課題のパフォーマンスを記録しました.
図1. 本研究の実験方法
右背外側前頭皮質へのtRNSは体性感覚および聴覚の脳活動を変化せず,パフォーマンスも改善されなかった.このことから,高次脳領域へランダムノイズは感覚野や運動野への適用に比べ効果が低い可能性が示された.
図2. 本研究の結果
原論文情報:
Koya Yamashiro, Koyuki Ikarashi, Taiki Makibuchi, Sayaka Anazawa, Yasuhiro Baba, Tomomi Fujimoto, Genta Ochi, Daisuke Sato. Transcranial high‑frequency random noise stimulation does not modulate Nogo N2 and Go/Nogo reaction times in somatosensory and auditory modalities. Sci Rep. 2023 13(1):3014. doi: 10.1038/s41598-023-30261-3.