10/31 勉強会

【研究報告】

担当:菊元先生

タイトル:慢性足関節不安定症を有するアスリートの両側立位から片脚立位への移乗時における足圧中心の偏位

  • 背景・目的:足関節不安定症(CAI)は足関節捻挫の再発率が高く,再損傷の高リスク者の同定には,立位姿勢制御の安定性の変化が手掛かりになることが示唆されている.特に片脚起立課題では,健常群に比べてCAI群の姿勢制御能力の低下が報告されている.しかし,近年の研究成果より膝関節運動が身体重心の制御に寄与することも報告されている.片脚起立課題では膝関節の屈伸の可否により,股関節運動と足関節運動の連鎖が変化すると考えられる.膝関節を伸展位に保つことにより,股関節と足関節の運動は独立して身体重心位置に寄与する一方で,膝関節の屈曲が許された状態では下肢の開排運動によって股関節運動による足関節運動制御が可能になる.そこで本研究では,膝屈曲をともなう片脚起立位では,足関節での姿勢制御能力の低下が股関節運動と足関節運動の連鎖によりマスクされるため,正しい評価が困難であると仮説を立てた.CAI足の片脚立位課題において,膝関節固定による関節運動機能制御が姿勢制御戦略に与える影響を,片足のみCAIを有するバスケットボール選手を対象に足底圧中心軌跡(COP)を用いて検証することを目的とした.
  • 方法:片足のみ,IAC(International Ankle Consortium)の基準によりCAIに選定された男子バスケットボール選手9名を抽出した.FootScan(Rsscan社)上での両脚立位を10秒間の保持から片脚立位姿勢保持20秒間の移乗を行った際のCOPの偏位量を,CAI足とNon-CAI足との比較に加え,膝関節固定装具の着用有無による条件間の比較を行った.
  • 結果:両脚立位から片脚立位のCOP移動距離と,片脚立位時におけるCOP内外側の偏位量はCAI足がNon-CAI足に比して有意に高値を示した(p<0.05).一方,片脚立位時におけるCOP前後の偏位量は,Non-CAI足がCAI足に比して有意に高値を示した.また,膝関節固定装具着用時では,両脚立位から片脚立位のCOP加速度で,CAI足がNon-CAI足に比して有意に高値を示した.
  • 考察・結論:両脚立位から片脚立位への移乗課題において,CAI足は足関節機能の破綻により, COPは外側に偏位し,また片足立位時の姿勢保持は,内外側の戦略に依存した姿勢保持をしていたと考えられる.また,膝関節固定条件での片脚立位姿勢保持により,股関節・足関節の運動連鎖が絶たれ,より明確に足関節機能が明らかとなった.移乗時のCOP移動加速度がCAI足で高値となり,CAI足とNon-CAI足では,姿勢移乗時の足関節戦略が異なっている可能性が高い.
  • 今後:CAIの病態には構造的不全も含まれており,本研究ではその検証は行えていない.CAIを細分化し,各病態における姿勢移乗時の関節戦略を検証することで,より詳細な病態把握に近づけると考えている.

【文献抄読】

担当:田邊さん

タイトル:Tactile Perception of Right Middle Fingertip Suppresses Excitability of Motor Cortex Supplying Right First Dorsal Interosseous Muscle

出典:Oda et al., Neuroscience. 2022. DOI:10.1016/j.neuroscience.2022.05.012

  • 背景・目的:指先への触覚刺激は,一次運動野の興奮性を変調させることが示唆されている.この一次運動野の興奮性の変調は,両手手指および手内在筋に依存している可能性がある.本研究では,両手手指に対する触覚刺激(振動刺激)が,第一背側骨間筋(FDI)および小指外転筋(ADM)の皮質脊髄路興奮性に与える影響を検討した.
  • 方法:健常成人男性12名(32.0±8.7歳)に対し,両手手指に振動刺激を与えた.経頭蓋磁気刺激(TMS)による皮質脊髄路興奮性の評価は,振動刺激開始後200ms後に行った.両手手指に対する振動刺激はそれぞれの指に独立した刺激をランダムに与えた.
  • 結果:右中指への振動刺激により,右FDIの皮質脊髄路興奮性が抑制された.その他の手指への振動刺激は,左右のFDIおよびADMの皮質脊髄路興奮性を変調させないことが示された.
  • 結論:右中指に対する振動刺激は,右FDI領域の一次運動野の興奮性を抑制した.両手手指に対する振動刺激による皮質脊髄路興奮性の変調は,刺激された指および筋に依存することが示された.