10/24 勉強会

【研究報告】

担当:五十嵐 (小) さん

タイトル:Action postponing and restraint varies among sensory modalities

  • 背景・目的:視覚や聴覚,体性感覚といった感覚入力の種類(感覚モダリティ)は,思考や行動の実行だけでなく,反応抑制機能にも重要な役割を果たす.反応抑制機能には,反応保留・反応中止・反応遅延の3つがあり,これまでに感覚モダリティが反応中止とそれによって生じる反応遅延に及ぼす影響が検討されている.しかし,反応保留とそれによって生じる反応遅延については,未だ明らかとなっていない.その理由には,反応保留と反応遅延の評価方法が確立されていない,3つの感覚モダリティでの比較がなされていない,課題に刺激反応適合性が考慮されていないという3つの方法論的問題点があげられる.本研究では,これらの問題点を改善した実験パラダイムを作成し,感覚モダリティによる反応保留と反応遅延の違いとその神経処理を明らかにすることを目的とした.
  • 仮説:視覚モダリティにおいて,反応保留が高く,反応遅延が短いと仮説を立てた.
  • 方法:21名の成人男女を対象とした.視覚・聴覚・体性感覚刺激を用いた単純反応課題(SRT)とGo/No-go課題(GNT)を実施した.反応保留は,No-go刺激に対して,反応してしまった割合(誤答率)で評価し,反応遅延は,Go刺激に対する反応時間とSRTでの反応時間の差分(PT)で評価した.反応保留と反応遅延に関連する神経処理は,事象関連電位(ERP)を用いて,N2とP3成分の潜時と振幅を評価した.
  • 結果:反応保留に関して,聴覚モダリティと比較して,視覚モダリティで誤答率が低く,保留に関連する神経処理のN2振幅が大きかった.また,反応遅延に関して,聴覚および体性感覚モダリティと比較して,視覚モダリティでPTが短く,遅延に関連する神経処理のN2潜時が短かった.
  • 考察:視覚モダリティで反応保留が短く,No-go刺激による葛藤モニタリングのための神経活動が高いことが関与していると考えられる.N2振幅は,葛藤モニタリングに必要な神経資源量を反映しており,誤答率が低いグループでN2が増大することが報告されている.したがって,視覚モダリティでN2振幅が大きいことから,誤答率が低くなったと考えられる.また,視覚モダリティで反応遅延が短かった.これは,N2潜時で示されているように,葛藤モニタリングの処理が速いことが関与していると考えられる.
  • 結論:反応保留と反応遅延は,感覚モダリティによって異なることが示唆された.

【文献抄読】

担当:高橋さん

タイトル:Sensory system-specific associations between brain structure and balance

出典:Hupfeld et al., Neurobiology of Aging 2022. DOI:10.1016/j.neurobiolaging.2022.07.013

  • 背景と目的:姿勢制御は,視覚,固有受容感覚,前庭感覚が脳幹や小脳で統合かつ維持され,これらの感覚の割合は個人や環境によって異なり,感覚の重みづけと定義されている.これまでにバランス機能の低下には脳構造が関与していることが報告されているが,立位バランスにおける感覚入力の依存度と脳構造の関連は不明であるため,本研究で検証した.
  • 方法:健常成人36名,高齢者22名にバランス評価(Modified Clinical Test of Sensory Interaction in Balance:mCTSIB)とMRI撮像を実施した.mCTSIBでは,開眼立位,閉眼立位,開眼フォームラバー立位,閉眼フォームラバー立位で重心動揺を測定した.
  • 結果:視覚依存度と右帯状回の皮質の厚さに負の相関,固有受容感覚と皮質の折りたたみ指数に正の相関,前庭機能の低下と左縁上回の皮質の厚さに負の相関が認められた.
  • 結論:立位バランスにおける感覚入力の依存度と脳構造に関連があることが示唆された.