越智先生の研究論文が国際誌「JMIR Serious Games」に採択されました!

越智元太講師(健康スポーツ学科,スポーツ生理学Lab,運動機能医科学研究所)らの研究論文が,国際誌『JMIR Serious Games』に採択されました!


研究内容の概要:

習慣的な身体活動には,生活習慣病予防や肥満の防止だけでなく,注意・集中,選択判断能力といった前頭前野の司る高次認知機能 (実行機能) を向上させるなど,健康に対する様々な効果が知られていますが,運動の習慣化は難しく,世界的に身体不活動化が社会問題となっています.この解決策として,仮想現実環境 (VR) を利用したエクササイズゲームが注目されており,「退屈」「疲れる」といった運動のネガティブなイメージから注意をそらし,「楽しい」といった運動好意度を高めるなど心理的な効果が示されています.適度な運動は実行機能にも好影響を与えることから (Yanagisawaら,2010; Byunら,2014; Suwabeら.2018),VRエクササイズは気分のみならず実行機能も向上させる可能性がありますが,VRエクササイズが認知機能に与える影響は不明なままでした.そこで,本研究では,10分間の1)ヘッドマウントディスプレイを用いて行うVR運動条件,2)平面画面の前で行う運動条件,3)椅子に座る安静条件の3条件が,認知機能に与える影響を検証しました.運動前後に気分指標と,実行機能指標であるカラーワードストループ課題を用い,反応時間と正答率から評価しました.その結果,VR運動条件では運動条件,安静条件と比べ,運動後に「活気-活力」「覚醒度」「活性度」といった快気分指標の増加を引き起こしました.カラーワードストループ課題成績には差は認められず,「覚醒度」の変化と反応時間の変化との間に正の相関関係が見られたことから,VR運動後の覚醒度の過剰な増加が認知機能向上効果減弱を招く可能性が示されました.



研究者からのコメント:

運動習慣化を促進するには,運動の持つ健康増進効果といった「価値」だけでなく,運動に対する前向きな印象「好意度」が重要とされています.本研究から,VRと運動の併用は,運動単独に比べ,快気分を誘発することが明らかとなり,運動好意度を高める運動条件として,運動習慣化を促進する新たな運動プログラムとなる可能性を示唆します.一方で,本研究ではVRエクササイズが実行機能向上効果を有するかは明らかにできませんでしたが,今後,VRコンテンツと運動の最適な組み合わせの検証を進めることでVRエクササイズのさらなる可能性を検証していく予定です.

本研究成果のポイント:

①10分間の運動か安静の前後に実行機能課題をパソコンで行い,気分を質問紙で回答させました (図1A).安静条件では椅子に座って安静に (図1B),2D運動条件はモニターに表示される指示に合わせてボクシング運動を (図1C),VR運動条件ではヘッドマウントディスプレイ装着し,表示される指示に合わせてボクシング運動を行いました (図1D).



②椅子に座っている安静条件,ディスプレイを見ながら運動を行う2D運動条件に比べ,ヘッドマウントディスプレイを装着して運動を行うVR運動条件では,運動後の「活気-活力」項目の増加が認められました (図2A).2D運動条件は安静条件に比べ覚醒度,活性度の増加が見られましたが,VR運動条件では2D条件よりも増加度が大きいことが示されました (図2B, C).これらの結果から,VR運動は気分向上効果を有することがわかりました.

③難しい試行と簡単な試行の反応時間の差であるストループ干渉は実行機能の指標です.ストループ干渉が短くなると,実行機能が向上したと言えます.ストループ干渉は安静条件,2D運動条件,VR運動条件すべてにおいて,運動前後で変化は見られず,実行機能向上効果は確認されませんでした (図3).



原論文情報:

Genta Ochi, Ryuta Kuwamizu, Tomomi Fujimoto, Koyuki Ikarashi, Koya Yamashiro, Daisuke Sato. The Effects of Acute Virtual Reality Exergaming on Mood and Executive Function: Exploratory Crossover Trial. JMIR Serious Games. 2022 (in press).