横田裕丈助教(理学療法学科,スポーツ医科学Lab,運動機能医科学研究所)らの研究が第51回日本臨床神経生理学会で優秀賞に選ばれました!
研究結果:迷走神経耳枝に対する経皮的迷走神経刺激(tVNS)は痛覚閾値を上昇させ,その効果は副交感神経活動の増大と関連する.
研究内容の概要:
急激なストレスや疼痛による交感神経活動の過剰な興奮は骨格筋を緊張させ,慢性疼痛を引き起こすことや,慢性疼痛有訴者は持続収縮タスクや寒冷刺激に対して過剰な交感神経活動の増大を示すことなどが報告されており,慢性疼痛と自律神経活動は密接に関与していることが示唆されます.この交感神経活動と拮抗した作用を持つのが副交感神経活動であり,本研究では副交感神経活動において主要な役割を担う脳神経である迷走神経に対して非侵襲的に刺激することが可能な経皮的迷走神経刺激(transcutaneous vagus nerve stimulation:tVNS)を用い,tVNSが痛覚知覚に及ぼす影響と自律神経活動との関係を明らかにすることを目的に実験を行いました.
健常成人20名を対象とし,迷走神経の求心線維である左耳甲介(tVNS条件)及び迷走神経支配のない左耳朶(Sham条件)に対して,3.0 mA,100 HzのtVNSを120秒間施行し,その前後での痛覚知覚と自律神経活動の変化を計測しました.痛覚閾値の評価には,客観的痛覚指標であり慢性疼痛との関連が報告されている侵害屈曲反射(nociceptive withdrawal reflex:NWR)閾値を用いました.その結果,tVNS条件において,tVNS前と比較してtVNSから10分,30分後においてNWR閾値が有意に上昇,つまり,痛み知覚を抑制しました.また,tVNS中に副交感神経活動が増大した被験者ほど,10分,30分後のNWR閾値の上昇量が大きいという結果が得られ,左耳甲介に対する2分間のtVNSにより副交感神経活動が賦活された被験者ほど,刺激10分以降の疼痛抑制が得られやすいことが示唆されました.
研究者からのコメント:
経皮的迷走神経刺激(transcutaneous vagus nerve stimulation:tVNS)は,迷走神経の求心線維を刺激することで,自律神経活動や脳活動を変調させることが可能であり,近年非常に注目を集めています.本研究では,解剖学的に迷走神経のみが支配していることが報告されている耳甲介と呼ばれる迷走神経耳枝に対して刺激を行うことで,真に迷走神経求心線維に対する刺激が痛覚知覚に及ぼす効果を検証できたことに意義があったと考えております.さらに,tVNSによるNWR閾値と自律神経活動の変化を同時に計測することでその関連性を明らかにし,従来から指摘されてきた慢性疼痛と自律神経活動の関連性を支持する結果が得られました.
本研究成果は,学部4年生の川鍋ゆりかさんと共同して行った実験で,その結果を令和3年(2021年)12月16日(木)~18日(土)に開催された第51回日本臨床神経生理学会で発表し,同大会における『優秀演題賞』を受賞することができました.
本研究成果のポイント:
① 健常成人20名を対象に,迷走神経求心線維のみが支配するとされる耳甲介(tVNS条件)と迷走神経支配のない耳朶(sham条件)に対して,0 mA,100 HzのtVNSを120秒間施行しました.測定肢位は安静イス坐位とし,心電図計測中の被験者の腓腹神経に対してランダムに電気刺激をすることで,大腿二頭筋短頭から得られる侵害屈曲反射(NWR)閾値を測定しました.
② tVNS前,tVNS直後,tVNSから10分,30分後の計4地点でのNWR閾値を測定し,tVNS条件とsham条件それぞれで比較したところ,tVNS条件において,tVNS前と比較してtVNSから10分,30分後においてNWR閾値が上昇しました(10分後:p=048 30分後:p=0.037).
③ tVNSによるNWR閾値と自律神経活動の変化の関係性を検討したところ,tVNS中に副交感神経活動が増大した被験者ほど,10分,30分後のNWR閾値の上昇量が大きいことが明らかとなり(10分後:p=01 30分後:p=0.005),従来から指摘される慢性疼痛と自律神経活動の関連性を支持する結果が得られました.
演題名「経皮的迷走神経刺激による自律神経活動の変調と疼痛抑制効果の関連」
共同演者:横田裕丈1, 2),平林怜1, 2),関根千恵1, 2),川鍋ゆりか1),那須仁世1),高橋穂乃花1),大鶴直史1, 2),齊藤 慧1, 2),小島 翔1, 2),宮口翔太1, 2) ,江玉睦明1, 2) ,大西秀明1, 2)
1) 新潟医療福祉大学 リハビリテーション学部 理学療法学科
2) 新潟医療福祉大学 運動機能医科学研究所