10/25 勉強会

【研究報告】

担当:菊元

タイトル:片足CAI発症者における膝関節運動機能を制御した際の片脚立位姿勢への影響

  • 目的:足関節不安定症(CAI)は足関節捻挫の再発率が高く,再損傷の高リスク者の同定には,立位姿勢制御の安定性の変化が手掛かりになることが示唆されている.起立課題,特に片脚起立課題では,健常群に比べてCAI群の姿勢制御能力の低下が報告されている.また,立位制御では股関節と足関節を中心とした姿勢制御戦略がその中心と考えられているが,近年,膝関節運動が身体重心の制御に寄与することが報告されている.そこで本研究は,CAI足の片脚立位課題において,膝関節固定による関節運動機能制御が姿勢制御戦略に与える影響を,片足のみCAIを有するバスケットボール選手を対象に,足底圧中心軌跡(COP)を用いて検証した.
  • 方法:片足のみ,IAC(International Ankle Consortium)の基準によりCAIに選定された男子バスケットボール選手7名を抽出した.FootScan(Rsscan社)上での片脚立位姿勢保持を20秒間,60秒の休憩を挟んで2回行い,その後,180秒の休憩中に膝関節固定装具を着用し,膝関節を固定した状態で20秒間の片脚立位姿勢保持を60秒の休憩を挟んで2回,計4回「装具あり」と「装具なし」で繰り返し,3セット計12回の計測を実施した.各対象者における足部の先端部と後端部の距離を足部矢状面の100%,第1中足骨と第5中足骨の距離を足部前額面の100%とし,COPが通った範囲の割合を算出した.
  • 結果:膝関節伸展位(膝関節0°)で固定した際,足部矢状面でのCOPが通った範囲の割合が,片脚立位姿勢保持開始5秒から10秒間において(p<0.01),また10秒から15秒間において(p<0.05)共にCAI足で有意に高値を示した.膝関節屈曲15°での固定時におけるCAI足と健常足の間で,足部矢状面と前額面,共に有意な差は認められなかった.
  • 結論:片脚立位姿勢保持課題において,CAI足は膝関節の運動機能を制御された際には,矢状面での姿勢保持戦略を有意に使用している可能性が示唆された.また,膝関節固定条件での片脚立位姿勢保持は,股関節・足関節の運動連鎖が絶たれているが,健常足とCAI足では,その関節戦略も異なっている可能性が高い.
  • 今後:CAIの病態には構造的不全も含まれており,本研究ではその検証は行えていない.CAIを細分化し,各病態における片脚立位姿勢保持時の関節戦略を検証することで,より詳細な病態把握に近づけると考えている.

 

【文献抄読】

担当:鈴木(孝)

タイトル:Ascending noradrenergic excitation from the locus coeruleus to the anterior cingulate cortex

出典:Koga, K., Yamada, A., Song, Q. et al. Ascending noradrenergic excitation from the locus coeruleus to the anterior cingulate cortex. Mol Brain 13, 49 (2020).

  • 背景:現代のストレス社会における、痛み・かゆみは深刻な問題となっている。これまでの痛み・かゆみに関する先行研究では、前帯状皮質(ACC)の活動増加や青斑核(LC)のノルアドレナリン(NA)神経細胞の下行性投射による痛覚調節機能が痛み・かゆみ行動に重要な役割を担っているとの報告があった。しかし、LC-NAニューロンのACCへの上行性投射による痛み・かゆみへの関与は不明であった。そのため、本研究ではLC-NAニューロン投射によるACC内のシナプス伝達や痛み・かゆみ反応に対する選択的効果を調べることとした。
  • 方法:マウスを用いて脳スライス標本を作製し、ACCの錐体細胞からホールセルのパッチクランプ記録を行い、NAを灌流投与した時の自発性興奮性後シナプス後電流を測定した。次に、NAの受容体アンタゴニストを用いて、自発性興奮性シナプス後電流に関与している受容体の同定を行った。加えて、NA受容体の下流に存在する、アデニル酸シクラーゼ(AC)タイプ1および8のノックアウトマウスを用いて、サブタイプの同定を行った。そして最後に、オプトジェネティクス法を用いて、LCにチャネルドロドプシンを発現させたマウスのLC-ACC経路を特異的に活性化させ、光刺激を与えた時の行動反応を検証した。
  • 結果:マウスの脳スライス標本を作製したところ、形態学的にはLC-NAの軸索終末はグルタミン酸様の軸索を介して、ACCへのシナプス伝達が生じていることが明らかとなった。ACCニューロンの興奮および抑制性の活動記録としては、ACCへのホールセルパッチクランプ記録およびNA灌流投与後、ACCの自発性興奮性後シナプス電流の増加が確認されグルタミン酸の放出促進が示された。これに加え、NA受容体アンタゴニストおよびノックアウトマウスを用いた検証により、NAβ受容体とACタイプ8の関与が明らかとなった。最後に、オプトゲネティクス法を用いた行動実験により、LC-ACC経路の活性化はかゆみ・痛み行動を誘発し、それらの閾値低下を誘発した。
  • 結論:LC-ACC経路の活性化は痛み・かゆみを誘発し、その興奮性の伝達基盤にはβ受容体-AC8シグナル経路を介在していることが明らかとなった。