6/14 勉強会

【研究報告】

担当:宮口

タイトル:小脳への経頭蓋交流電流刺激が両手運動課題に与える効果

  • 目的:小脳への経頭蓋交流電流刺激(tACS)が両手運動課題の成績に及ぼす影響を明らかにすること.
  • 方法:対象は右利き健常成人22名(21.7±0.5歳)とした.両手運動課題にはPurdue Pegboard Test(PPT)を使用し,1分間で組み立てたパーツ数を運動成績とした.tACSは導電性ゴム電極をSMA直上(Czの3.0 cm前方),小脳領域直上(外後頭隆起直上),左肩部に貼付し,1.0 mA,70 Hzにて施行した.刺激条件は,小脳条件,SMA条件,同時刺激条件,sham条件の4条件とした.ベースラインの運動成績の評価としてPPTを1回実施した後,各刺激をランダムな順序で試行しながら12回(4条件×3回)のPPTを遂行した.各被験者12回の運動成績から近似直線を算出した後,各試行の運動成績と近似直線との差(成績変化量)を算出し,各条件の成績変化量の平均値を一元配置分散分析にて比較した.またベースラインの運動成績と成績変化量との関係性をピアソンの相関係数にて検討した.
  • 結果:全被験者の運動成績から算出した近似直線のR2値は0.8084であった.一元配置分散分析の結果,sham条件に比べ,他の3条件全てにおいて成績変化量が有意に大きい値となった(p<0.05).またSMA条件よりも小脳条件において有意に大きい値となった(p<0.05).さらに小脳条件のみ,成績変化量とベースライン成績との間に有意な負の相関が認められた(r=-0.478,p=0.024).また小脳条件における成績変化量の値は,全被験者が正の値を示した.これらの結果から,小脳条件では全被験者の両手運動スキルが向上し,その効果はベースライン成績が低い被験者ほど有効であり,かつSMA条件よりも効果的であることが示された.
  • 考察:小脳へのγ帯域のtACSによって,小脳から一次運動野への抑制が減弱すると共に,一側上肢の巧緻性が向上する(Naro et al., 2017).また小脳分子層においてプルキンエ細胞に抑制性に接続する介在ニューロンは,30~80 Hzの周波数で活動する(Zeeuw et al., 2008).このことから本研究では,小脳へ70 HzのtACSを与えたことによって,小脳分子層における介在ニューロンの活動が促通され,プルキンエ細胞を介した一次運動野への抑制が減弱したことで,両手の運動スキルが向上した可能性が考えられる.
  • 結論:小脳へのγ帯域のtACSは,両手の運動スキル向上に有効であることが明らかになった.

 

【文献抄読】

担当:丸山

タイトル:Neuromuscular control of ankle-stabilizing muscles-specific effects of sex and menstrual cycle

出典:International Journal of Sports Medicine, 2021 March

  • 目的:足関節を安定させる筋の神経筋制御および機械的特性の性差を明らかにすることを目的とした.副次的な目的として,女性における月経周期の時期による違いも評価した.
  • 方法:対象は,男性17名と正常月経周期(月経周期日数:26~32日)を有する女性15名とした.3つの異なるバランス課題中に,長腓骨筋(PL)と前脛骨筋(TA)の筋活動,姿勢動揺率を記録した.筋の筋緊張,弾性,硬度はMyoton PROを使用して安静時に評価した.女性の測定は2回(排卵時と卵胞前期)行い,男性の測定は1回のみ実施した.
  • 結果:全てのバランス課題において,男性よりも女性の方が前脛骨筋-長腓骨筋の同時収縮(TA/PL比)が有意に大きかったが,月経周期のphase間の違いは難易度の高い2つのバランス課題でのみ観察された(p < 0.05).同様のパターンが姿勢動揺においても観察された.
  • 結論:これらの結果は,神経筋制御と機械的特性に対する性ホルモンの影響の重要性,月経周期の各時期での違いを強調している.これらの知見は,スポーツ活動時の下肢障害予防を目的とした神経筋戦略を開発する上で重要な意味を持つ.