10/5 勉強会

【研究報告】

担当:井上

タイトル:高齢脳卒中患者におけるAGWS 2019推奨の下腿周径カットオフ値の妥当性の検討

  • 目的:AWGS 2019のサルコペニア診断基準では、サルコペニアの早期の兆候を特定するためのcase findingが新たに追加され、下腿周径の測定を推奨している。高齢脳卒中患者におけるサルコペニアが機能予後に影響を与えることが報告されており、精度の高いスクリーニングが必要である。しかし、脳卒中患者においてAWGS 2019が推奨している下腿周径のカットオフ値(男性:34cm, 女性:33cm)の妥当性を検討した報告はない。本研究の目的は回復期リハビリテーション病棟に入院した高齢脳卒中患者において、サルコペニアのcase findingとしての下腿周径カットオフ値の妥当性を検証することとした。
  • 方法:研究デザインは横断研究であり、対象は2018年4月から2019年4月に浜松市リハビリテーション病院に入院した65歳以上の脳卒中連続症例とした。入院時のサルコペニアはAWGS 2019の診断基準に従い筋量と筋力で診断した。筋量はInbody S10を使用し、筋力は握力を測定した。統計解析はサルコペニアを下腿周径でスクリーニングするためのROC解析を行い、AWGS 2019推奨の下腿周径(男性:34cm, 女性:33cm)及びその周囲(男性: <35cm,<33cm,<32cm, 女性:<34cm,<32cm,<31cm)の感度、特異度、accuracy、F値、マシューズ相関係数(MCC)を算出した。
  • 結果:解析対象は256名であり、平均年齢76.6±7.5歳、43%が女性であった。サルコペニアの有病割合は男性56.2%、女性73.6%であった。男性では推奨値の<34cmの感度は85%, 特異度は66%であり、accuracy 77%、F値 0.80、MCC 0.52は推奨値周囲のカットオフ値と比較して最も高かった。女性では、推奨値の<33cmにおける感度は91%, 特異度28%であり、accuracy 75%、F値 0.84、MCC 0.23でありcase findingとして十分な感度を有していた。
  • 結論:回復期リハビリテーション病棟に入院した高齢脳卒中患者においてサルコペニアのcase findingとしてAWGS 2019推奨の下腿周径カットオフ値は男女共に十分な感度を有しており、case findingとして妥当であることが示唆された。

 

【文献抄読】

担当:森下

タイトル:Associations of low handgrip strength with cancer mortality: a multicentre observational study

出典:Cheng‐Le Zhuan et al. Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle (2020)

  • 目的:握力のカットオフ値が、がん患者の死亡率を反映するのかどうかを調査すること。低握力ががんの種類によって異なるかどうかを調査すること。がん特異的死亡率について、ハザードリスクを調査すること。
  • 方法:後方視的に調査した。2012年6月~2018年12月の間にがんと診断された患者、8257名を対象とした。栄養状態、周径、ADL、QOL (EORTC QLQ‐C30 Version 3.0)、身体活動量などを評価した。握力測定を行い、最大の筋力を握力値をアウトカムとして用いた。
  • 結果および結論:低握力は女性と男性の全体的ながん死亡率に影響を及ぼした(p<0.05)。女性では、低握力は乳がんの死亡率と関連していた(p<0.05)。男性では、低握力は肺がんおよび結腸直腸がんの死亡率と関連していた(p<0.05)。本研究結果は、がん患者の死亡率に対する握力測定の有用性を示している。