3/2 勉強会

【研究報告】

担当:長坂

タイトル:脳卒中後疼痛に関与する一次体性感覚野の可塑的変化

  • 目的:脳卒中後の異常な痛みを引き起こす可塑性(神経細胞の活動変化および構造変化)を明らかにする
  • 方法:視床感覚核の脳卒中に起因する疼痛モデルラットを対象にした.まず,一次体性感覚野で生じる活動の変化に着目し,四肢を刺激した際の神経活動を,膜電位感受性色素を用いたin vivo光計測によって記録した.次に,一次体性感覚野の層ごとの神経活動を調べるために,スライス切片での光計測を行った.構造変化の特定には,ゴルジ染色を用いて,一次体性感覚野の興奮性神経細胞の形態学的計測を行った.
  • 結果:in vivo光計測は,健常個体と比較して脳卒中後疼痛モデルにおける一次体性感覚野の興奮性増加およびその活性化領域の拡大を示した.この傾向はスライス計測においても同様であり,特に浅層領域で興奮性増加が顕著であった.形態学的計測によって浅層の興奮性神経細胞の基底樹状突起の拡張および分岐の増加が認められた.
  • 考察:本研究結果は,視床感覚核における脳卒中は,その領域と解剖学的に密接に繋がる一次体性感覚野にダイナミックな可塑性を生じさせることを明らかにした.本実験結果で確認された一次体性感覚野の可塑性を制御する方法を確立することによって,治療法の開発に役立つと思われる.

 

【文献抄読】

担当:小島(翔)

タイトル:Somatosensory cortex participates in the consolidation of human motor memory

出典:Kumar et al. PLoS Biol. 2019 Oct; 17(10): e3000469.

  • 目的:本研究の目的は,一次体性感覚野の活動が運動学習における運動記憶の定着に及ぼす影響を抑制性のtheta burst stimulation(cTBS)を用いて明らかにすることであった.
  • 方法:健常成人60名を対象に実施した.運動学習課題は,ロボットアームを用いたリーチング課題とし,漸増的に負荷を与える(gradual)群と初期より最大負荷を与える(abrupt)群の2群とした.cTBSは,一次運動野にcTBSを与える(M1)条件,一次体性感覚野にcTBSを与える(S1)条件,Shan刺激を与える(Sham)条件の3条件とした.各被験者は6グループ(gradual-M1群,gradual-S1群,abrupt-M1群,abrupt-S1群,abrupt-sham群,gradual-S1-24h群)に分かれた.評価項目は,運動機能評価および一次運動野の興奮性(運動誘発電位),感覚鋭敏度評価とし,運動機能評価は運動練習日だけでなく,翌日にも運動機能を評価し,リーチング課題を用いた運動学習の効果が翌日に保持されるか否か検討することで運動記憶の定着を評価した.
  • 結果:S1に対して抑制性のcTBSを行うことによって,運動学習課題翌日の運動記憶の定着が阻害された.一方,24時間後にS1に対してcTBSを行った群では同様の結果は示されなかった.また,負荷形式の違いによる運動学習度合いや各群間の初日の学習レベルおよび翌日の再学習レベルに差は認められなかった.
  • 結論:調整課題などを用いた運動学習時の運動記憶の定着には一次体性感覚野が関与し,また,一次体性感覚野は運動学習に伴う早期の運動記憶の定着に関与していることが示唆された.