一過性の睡眠不足で生じた認知機能の低下は有酸素運動で改善する

小島将さん(大学院修士課程2年、運動生理Lab、運動機能医科学研究所)の研究論文が国際誌『Respiratory Physiology & Neurobiology』に採択されました!

 

小島さんは、運動による脳内の酸素供給とその効果について研究を行っております。今回は、睡眠不足による認知機能低下に対する運動の効果について検討した研究になっております。詳しい内容は以下に説明いたします。

 

研究概要

近年では、夜勤労働や旅客機での移動により一過性の睡眠不足に陥る機会が増えています。

一過性の睡眠不足であっても翌日の認知機能や注意機能が低下し、交通事故や医療ミスが増加することが報告されており、急性的かつ非薬物的に認知機能を改善させる方法が必要です。有酸素運動は、単回であっても運動後に認知機能を向上させると報告されています。しかし、睡眠不足によって生じた認知機能の低下が、有酸素運動により改善するかどうかは不明でした。そこで我々は、24時間の睡眠不足時に一過性の中強度有酸素運動を行い、運動前後の認知機能を評価しました.本研究により、睡眠不足による認知機能低下は、中強度有酸素運動により改善できることが明らかとなりました。

 

小島さんからのコメント

入院患者の多くは、環境の変化や手術部位の痛みなどが原因で一過性の睡眠不足に陥ります。その後、睡眠不足が慢性化することで転倒リスクや心血管イベント発生率などが増加することも考えられます。本研究で中強度の有酸素運動が睡眠不足状態の認知機能を向上させ、眠気を改善させることが明らかとなりました。運動介入が可能な対象者には積極的に運動介入を行うことが、認知機能および眠気の改善に効果的である可能性を示唆しました。今後も認知機能改善に効果的な運動強度、時間、種類を検討したいと思います。

 

研究成果のポイント

①20分間の中強度有酸素運動によって、正常睡眠条件と同様に睡眠不足条件でも前頭前野の酸素化ヘモグロビンが増加しました。

 

②睡眠不足条件で運動後に平均反応時間(A)、認知処理速度(B)、主観的な眠気(C)が改善しました。黒丸:睡眠不足条件

 

原著論文情報

Sho Kojima, Tomoya Abe, Shinichiro Morishita, Yuta Inagaki, Weixiang Qin, Kazuki Hotta, Atsuhiro Tsubaki. Acute moderate-intensity exercise improves 24-h sleep deprivation-induced cognitive decline and cerebral oxygenation: A near-infrared spectroscopy study. Respiratory Physiology & Neurobiology, 2019 (in press)