横田裕丈助教(理学療法学科,神経生理Lab,運動機能医科学研究所所属)の研究論文が,国際誌『Neuroscience Letters』に採択されました!!
研究内容の概要:
高次の知覚機能の評価指標である空間的二点識別覚は,加齢や中枢神経疾患,慢性疼痛患者において低下していることが知られています.一方で,一定時間の触覚刺激や電気刺激により二点識別覚が向上することも報告されています.この二点識別覚において,末梢の感覚受容器の活動や,末梢や脳内での抑制機構,および高次の認知段階における処理などの関与が示唆されています.しかしながら,その複雑なメカニズムゆえ,測定時の刺激ピンを当てる強さにより変動してしまう可能性が指摘されており,感覚検査の指標としての信頼性が疑問視されています.
そこで本研究は,測定時のピンの刺激速度および刺激深達度をコンピュータ制御できる特注の二点式触覚刺激装置を用い,網羅的に二点識別覚を測定しました.その結果,刺激速度5.0 mm/sおよび10.0 mm/s,刺激深達度1.0 mmでの測定で最も二点識別覚が向上し,同条件での反復した測定においては二点識別覚に変動は認められず,安定した測定結果が得られることが明らかになりました.本研究の成果は,「Neuroscience Letters」に掲載されています.
横田先生からのコメント:
これまで広く用いられてきた二点識別覚ですが,感覚機能の評価指標として用いることに対して否定的な意見も多くありました.その要因として,脳で認知されるまでの複雑なメカニズムや,検査者が異なることで得られる結果に差が生じることなどが挙げられます.本研究では,これまで測定値の差異を生じる可能性が指摘されてきた測定刺激の速度と深達度をコンピュータ制御することで, 繰り返しの測定においても高い信頼性のある,安定した結果の得られる二点識別覚測定方法を確立することができました.我々の研究グループでは,触覚刺激や脳に対する電気刺激などの様々な介入により,感覚機能を効果的に向上させる方法の開発を目指しています.本研究により得られた二点識別覚検査方法を用いることで,介入効果を正確に示すことが可能になると考えられます.本方法を用いて,今後二点識別覚を効果的に向上させる介入方法の開発が期待できます.
本研究成果のポイント:
① 二点識別覚測定にコンピュータ制御による二点式触覚刺激装置を用いた点
測定時の刺激強度が二点識別覚に影響を与えることが問題点として指摘されてきましたが,本研究では,コンピュータにより刺激速度や深達度,刺激提示時間などを制御できる二点式触覚刺激装置を用いることで,その問題点を克服しました.
② 二点識別覚の最大限のパフォーマンスを反映する,安定した測定方法を明らかにした点
上記の方法を用いることで,被験者の最大限の二点識別覚パフォーマンスを反映する測定刺激速度(5.0 mm/s,10.0 mm/s)および刺激深達度(1.0 mm)を明らかにしました(50% 閾値の値が小さいことが二点識別覚が良いことを意味します).さらに,同条件での測定であれば,繰り返しの測定においても二点識別覚に変動は認められず,安定した測定結果が得られることが明らかになりました.
原著論文情報:
Yokota H, Otsuru N, Kikuchi R, Suzuki R, Kojima S, Saito K, Miyaguchi S, Inukai Y, Onishi H. Establishment of optimal two-point discrimination test method and consideration of reproducibility. Neuroscience Letters. Volume 714, 1 January 2020.