12/10 日本基礎理学療法学会予演会

【基礎理学療法学会予演会】

担当:椿

タイトル:中強度運動後に生じる酸素化ヘモグロビンおよび総ヘモグロビンの変動と生理学的指標との関係

  • 目的:有酸素運動の急性効果に関して,運動後に認知課題の成績が向上することが報告されている.我々は,有酸素運動後も運動関連領野の酸素化ヘモグロビン(O2Hb)および総ヘモグロビン(THb)が高値であることを報告している.運動後のO2HbおよびTHbの高値が,換気や体循環変動の影響か否かを評価することを目的に,本研究を行った.
  • 方法:健常成人12名(女性9名)を対象とし,自転車エルゴメータによる中強度での下肢ペダリング運動を課題とした.安静3分の後,最高酸素摂取量の50%の負荷で20分間の定常負荷運動を実施し,運動後には15分間の安静を設けた.この間,粗大運動時のモニタリングに最適とされる近赤外線分光法(NIRS)により,脳酸素モニタ(OMM-3000,島津製作所)を使用しO2Hb,脱酸素化ヘモグロビン(HHb),総ヘモグロビン(THb)を計測した.国際10-20法によるCzを基準として30mm間隔で送光プローブと受光プローブを配置し,全24チャネルで測定した.同時に,体循環の指標として平均血圧(MAP)をビートバイビートで計測した.また,換気の指標として,酸素摂取量体重比(VO2/W),呼気終末二酸化炭素濃度(ETCO2)をブレスバイブレス法で測定した. O2Hb,HHb,THbは全24チャネルを平均した.すべての計測項目は安静時平均値に対する変化量を算出し,1分ごとに平均した.中強度運動の終盤5分間の平均値と,運動後安静15分間の平均値を求め,運動前安静とともに一元配置分散分析により比較した.また,運動後のMAP ,VO2/W,ETCO2の変動とO2Hbの変動との相関関係の強さを,ピアソンの相関係数により求めた.
  • 結果:O2Hbは,運動前安静と比較して運動終盤5分間0.066±0.009 mM・cmおよび運動後安静15分間0.053±0.008 mM・cm が有意に高値であった(p < 0.01).また,THbも運動前安静と比較して運動終盤5分間0.084±0.012 mM・cmおよび運動後安静15分間0.078±0.014 mM・cm が有意に高値であった(p < 0.01).HHbでは,運動終盤5分間0.018±0.009 mM・cm,運動後安静15分間0.025±0.009 mM・cmであり,有意な変化を認めなかった.MAP,VO2/W,ETCO2は,運動中に有意に上昇するものの,運動は速やかに運動前安静のレベルまで低下した.O2Hb との相関関係の強さは,MAPがr = -0.471,VO2/Wがr = 0.378,,ETCO2がr = 0.359,THb との相関関係の強さは,MAPがr = -0.360,VO2/Wがr = 0.360,,ETCO2がr = 0.353であり,いずれも有意ではなかった(p > 0.05).
  • 結論:20分間の有酸素運動によって,運動中に上昇したO2HbおよびTHbは,運動後安静中も15分間は運動中と同程度であることが明らかとなった.また運動後のO2HbおよびTHbの変動は,MAPなど他の生理学的パラメータの変動とは異なることが示された.

 

担当:中村(雅)

タイトル:スタティックストレッチングが筋発揮能力に及ぼす影響の検討―筋のたわみの変化との関連―

  • 目的:本研究の目的は,スタティックストレッチングによる筋のスティフネスや筋のたわみに及ぼす影響を検討し,最大筋力発揮やrate of force development(RFD)の変化との関連性を検討することである.
  • 方法:対象は健常男性14名の利き足側の腓腹筋とし,5分間のスタティックストレッチング介入前後に最大発揮筋力および筋のスティフネス,筋のたわみを測定した.最大発揮筋力は,足関節0°位における足関節底屈における最大等尺性収縮を最大値と筋力発揮開始から30,50,100,150,200ms前の間の時間―トルク曲線の傾きであるRFDを算出した.また,筋のスティフネスおよび筋のたわみに関して,超音波診断装置のせん断波エラストグラフィー機能を用いて測定した.
  • 結果:スタティックストレッチング介入により最大発揮筋力および100,150,200msのRFD,筋のスティフネスは有意に減少した.また筋のたわみは背屈方向へ有意に移動した.しかし,相関分析の結果,スタティックストレッチング介入前後の最大発揮筋力およびRFDの変化量と筋のたわみの変化量の関係性には有意な相関関係は認められなかった.
  • 結論:本研究結果より,スタティックストレッチングにより最大発揮筋力およびRFD,筋のスティフネスは減少し,筋のたわみは大きくなることが明らかとなったが,この筋のスティフネスやたわみの変化は発揮筋力の変化に関与しない可能性が示唆された.

 

担当:玉越

タイトル:脳梗塞後および脳出血後の運動介入が運動機能改善および組織傷害に与える効果の比較検証

  • 目的:脳卒中は発症機序により脳梗塞と脳出血に大別される。モデル動物を用いた基礎研究で、組織傷害の部位、大きさを同程度にした脳梗塞および脳出血モデルラットの自然回復過程を比較検証した報告では、脳出血モデルラットの機能回復の方が脳梗塞モデルラットより早いことが示されている。また、臨床研究において、同部位、同程度の大きさの脳傷害を生じた脳梗塞患者と脳出血患者では、リハビリテーション介入後の機能予後は脳出血患者の方が良好であると報告されている。これらのことから、脳梗塞と脳出血は脳傷害が同部位、同程度の場合、機能回復過程およびリハビリテーション効果が異なる可能性がある。本研究は、脳卒中病型別リハビリテーション方針の策定に向けて、組織傷害が同部位、同程度の大きさの脳出血モデルラットと脳梗塞モデルラットの運動機能回復過程と運動介入効果を比較検証することを目的とした。
  • 方法:実験動物にはWistar系雄性ラットを用いた。脳出血モデルラットは血管壁を脆弱化させるコラゲナーゼ溶液、脳梗塞モデルラットは血管を攣縮させるエンドセリン-1溶液を左線条体に微量注入して作製した。実験群には、偽手術群(SHAM群)、脳出血+非運動群(ICH群)、脳梗塞+非運動群(ISC群)、脳出血+運動群(ICH+EX群)、脳梗塞+運動群(ISC+EX群)を設けた。運動介入はトレッドミル走行装置を用いて術後4日目から28日目まで実施した。巧緻動作を評価するHorizontal ladder test、バランス機能を評価するRotarod testを用いて経時的に運動機能評価を行った。術後29日目に脳組織を採取し、脳切片を作製した後、クレシルバイオレット溶液を用いて染色を行った。画像解析ソフトを用いて傷害体積(出血巣もしくは梗塞巣)、ペナンブラ体積を解析した。
  • 結果:Rotarod testにおいて、ICH群はISC群と比較して有意に改善を認めた。Horizontal ladder testではICH群とISC群に有意差は認めなかった。Rotarod testおよびLadder testで、ISC+EX群はISC群と比較して有意な改善を認めたが、ICH+EX群はICH群と比較して有意な改善を認めなかった。傷害体積は、全群間に有意差は認めなかったが、ISC+EX群のペナンプラ体積はISC群と比較して有意な縮小を認めた。
  • 考察:脳出血と脳梗塞の運動機能障害の自然回復過程において、麻痺側前肢の巧緻動作は同程度の障害が継続するが、全身性のバランス機能は脳出血の方が脳梗塞より早く回復することが分かった。また、運動介入による機能回復効果は脳梗塞の方で顕著に認め、ペナンブラの縮小が関与していることが分かった。これらのことから、脳梗塞は、脳出血と比べて機能障害の自然回復が遅いが、運動介入によってペナンブラを縮小させ、機能改善を促進できることが示唆された。一方、脳出血は脳梗塞と比較して機能障害の自然回復が早いが、脳梗塞と同運動条件では機能改善を促進することができないことが示唆された。