大脳皮質内に存在する2種類の抑制回路の閾値が異なることが判明!
研究内容の概要:
経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation;TMS)を用いて大脳皮質一次運動野を刺激することで,末梢の筋から運動誘発電位(motor evoked potentials;MEP)が記録されます.MEPの振幅値は,皮質脊髄路の興奮性の指標として利用されています.またMEPを誘発する一次運動野へのTMSの1-6 ms前に閾値以下の刺激強度でTMSを与えることにより,単発のTMSによって記録されるMEPよりも,振幅が小さくなる現象が認められます.この現象を短間隔皮質内抑制(short-interval intracortical inhibition;SICI)といい,γアミノ酪酸(GABA)A受容体を介した抑制回路の興奮性の指標として用いられています.また一次運動野に対するTMSの約20-30 ms前に末梢神経に電気刺激を与えることによってMEP振幅が低下する現象が認められます.この現象を短潜時求心性抑制(short-latency afferent inhibition;SAI)といい,皮質内におけるコリン作動性の抑制回路およびGABAA系の抑制回路が関与することが報告されています.
本研究は,TMSによる単発のMEP振幅値および試験刺激強度の違いがSAIおよびSICIに与える影響を検討しました.その結果,試験刺激強度の増大に伴ってSAIは減弱し,SICIは増大する傾向を示すことが明らかになりました.この結果は,SAIに関与する抑制性介在ニューロンとSICIに関与する抑制性介在ニューロンでは,それぞれが影響を及ぼす介在ニューロンの閾値が異なることを示唆しています.
本研究成果は,2017年6月26日に国際誌『Neuro Report』に受理されました.
研究者からのコメント:
今回の研究では,大脳皮質内に存在する抑制性介在ニューロンが接続している介在ニューロンの閾値が,抑制回路の種類によって異なる可能性が示唆されました.本研究は,未だ詳細が明らかになっていない皮質内抑制回路の解明に寄与するとともに,近年,リハビリテーション分野において注目を集めている非侵襲的な脳刺激法や,運動課題などの介入効果または効果のメカニズムを検討するための研究の基礎的知見となります.
本研究成果のポイント:
①試験刺激強度の増大に伴い,SAIは減弱し,SICIは増大する傾向が示された.a)およびc)は,各試験刺激強度において計測されたunconditioned MEPの値とSAIまたはSICI計測時のconditioned MEPの値を示している.b) およびd)は,各試験刺激強度において計測されたunconditioned MEP の値に対するSAIまたはSICI計測時のconditioned MEPの値を示している.
②SAI,SICIともにunconditioned MEPとconditioned MEPの間に正の相関関係が認められた.a)およびb)は,各試験強度を用いて計測されたunconditioned MEPとSAIまたはSICI計測時のconditioned MEPの散布図を示している.
③SAIおよびSICI計測におけるConnectivityモデルを示す.SAIに関与する抑制性介在ニューロンは比較的閾値の低い介在ニューロンに接続している可能性がある.そのため,試験刺激強度の増大に伴い,抑制性介在ニューロンの影響を受けていない(抑制されていない)閾値の高い介在ニューロンの活動が相対的に増大し,結果としてSAIが減弱する.一方,SICIに関与する抑制性介在ニューロンは閾値の低い介在ニューロンだけでなく,閾値の高い介在ニューロンにも接続している可能性がある.そのため,試験刺激強度の増大に伴い,抑制性介在ニューロンによる影響を受けた(抑制された)閾値の高い介在ニューロンの活動が相対的に増大し,結果としてSICIが増大する.
原論文情報;著者名、論文タイトル、雑誌名、巻号、ページ、西暦年、doi
Shota Miyaguchi, Sho Kojima, Ryoki Sasaki, Hiroyuki Tamaki, Hideaki Onishi. Modulation of short-latency afferent inhibition and short-interval intracortical inhibition by test stimulus intensity and motor evoked potential amplitude. Neuro Report (2017).