9/5 第50回日本作業療法学会予演会

【第50回日本作業療法学会予演会】

担当:大山

タイトル:肘関節支持機能に関する回外筋活動特性

要旨

  • 目的:本研究では,転倒模倣動作において手掌を接地した際の回外筋の活動特性を筋電図学的に明らかにし,筋収縮の開始と筋張力発生との時間的関係から手掌接地直前から生じる興奮性の意義について検討することを目的とした.
  • 方法:課題動作は前方に倒れて手掌をつく転倒模倣動作とし,前腕は中間位で前方に手掌を接地するよう被験者に指示した.被験筋は回外筋と前腕回外作用を持つ上腕二頭筋とし,回外筋は双極性ワイヤー電極で,上腕二頭筋は表面電極で筋電図を導出した.解析区間は手掌接地前後500 msとした.回外筋の筋収縮開始から筋張力発生時間を調べる実験では,筋電図導出に用いたワイヤー電極を利用して電気刺激を行い,その際の回外筋力曲線を作成した.電気刺激は刺激幅300 μs,最大刺激の1.2倍強度とした.
  • 結果:回外筋の活動は手掌接地前400 msから徐々に増え,接地前100 msになると急峻に増大し,それは接地後も持続した.その際の筋活動は最大の約50%にも及んだ.一方で,上腕二頭筋の筋活動は変化が少なく,常時低値を示した.回外筋への電気刺激から回外筋の最大筋力が発生するのに130 ms以上の時間を要していた.
  • 考察:転倒模倣動作時の回外筋の特性は,同じ前腕回外作用を持つ上腕二頭筋とは異なるものであることから,回外筋は前腕回外作用だけでなく,肘関節の動的支持機能の役割を担う可能性がある.手掌接地直前から興奮性が高まる現象は,電気刺激から最大筋力を発生させるのに要する時間を踏まえると合理的なものである.

 

担当:桐本

タイトル:咀嚼運動によるGo / No-go 視覚刺激反応時間の短縮効果は光トリガの色により異なる

要旨

  • 背景:咀嚼とは「咀嚼筋によるリズミックな下顎の随意運動」と定義され,覚醒レヴェル,基礎代謝,心拍数の上昇,積極的な気分の湧出,ワーキングメモリの増大などの利点を報告する研究が多い(Wilkinson et al., 2002; Sakamoto et al., 2015)
  • 目的:本研究では,視覚刺激によるGo / No-go選択課題を用いて,咀嚼運動による反応時間の短縮効果の有無,及び刺激色の違いがその効果に及ぼす影響について詳細な検討を行った.
  • 方法:対象は健常成人17名(20-48歳,女性3名)とした.実験はヘルシンキ宣言に則った内容で計画され,実験開始前に被験者には十分な説明を行い,書面にて研究参加への同意を得た.実験の実施については新潟医療福祉大学倫理員会からの承認を得た.被験者は90 cm前方に設置された光刺激発信装置に椅子座位で正対した.刺激装置は,予告灯の点灯1秒後に指示灯がランダムな順序で青,または赤色に点灯するようにコンピュータソフトにて制御した.被験者は指示灯が青く点灯したときのみ手関節を背屈し,赤く点灯したときは安静を保つ(青Go / 赤No-go)選択反応課題,または赤色点灯時のみ反応し,青色点灯では反応しない(赤Go / 青No-go)課題を行った.各色の提示回数は各20回の計40回で,1試行間の間隔は10秒間とした.実験条件は以下4種類を設定した.1)青Go-安静5分間-青Go,2)赤Go-安静5分間-赤Go,3)青Go-ガム咀嚼5分間-青G,4) 赤Go-ガム咀嚼5分間-赤Go.実験は3日間に分けてランダムな順序で実施した.安静コントロール条件の1)と2)は同日に,3)と4)はこれとは別日の同一時間帯に設定し,覚醒レヴェルの統制に配慮した.Go課題遂行時の手関節背屈筋群の筋電図on setを反応時間とし,最大値と最小値を除いた18試行の平均値及びその変動係数を算出した.また,各コントロール条件における安静前後の反応時間の再現性を級内相関係数で評価した.
  • 結果:コントロール条件における安静前後の反応時間の級内相関係数は,青Go課題で r = 0.922,赤Go課題では r = 0.909であった.ガム咀嚼前後における反応時間は,青Go課題で咀嚼前195.9 ± 31.1 msec / 咀嚼後183.9 ± 24.4 msec,赤Go課題では 咀嚼前197.5 ± 24.8 msec  / 咀嚼後199.0 ± 25.8 msecであった.青Go課題におけるガム咀嚼前後,及びガム咀嚼後における青Go課題と赤Go課題との間に有意な反応時間の変化が認められた.反応時間の変動係数はガム咀嚼後における赤Go課題と比較して,青Go課題において有意な低下が認められた.
  • 考察:脳機能イメージングによる研究では,リズミックな咀嚼運動により脳幹部のCentral pattern generator(Lund, 1991; Nakamura et al., 2004)や,広範囲な運動関連脳梁域(Takahashi et al., 2007)が賦活することが知られている.本研究ではこれら脳領域の活動性に関する計測は行っていないが,上述の先行研究で生じたことと同じ機序により,青Go / 赤No-go選択課題の反応時間が短縮したと推察した.反応時間の変動係数の減少は,ガム咀嚼により選択認知課題に対する反応時間のばらつきも減少することを示唆していると考えた.一般的に運動開始時の視覚トリガ色として,青にはGo,一方赤にはNo-goというアフォーダンスが含有されていると考えられる.赤Go / 青No-go課題で咀嚼運動による反応時間の短縮効果が認められなかった背景として,視覚トリガ色とそのアフォーダンスが干渉し合う現象(ストループ効果)が関与している可能性があると推察した.