5/23 理学療法学会予演会

【理学療法学会予演会】

担当:小島

タイトル:機械的擦刺激による介入が皮質脊髄路興奮性に及ぼす影響

要旨

  • 目的:本研究では,点字様の刺激ピンを用いて,機械的擦刺激などの間欠的な触覚刺激による介入が皮質脊髄路興奮性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.
  • 方法:対象は健常成人14名であった.皮質脊髄路の興奮性指標には,運動誘発電位(MEP)を用い,右第一背側骨間筋より記録した.機械的触覚刺激部位は右示指の指腹とし,刺激介入条件は3条件とした.①単純刺激条件は,24本の刺激ピンを同時に突出させる条件,②複雑刺激条件は,縦6本の刺激ピンが左右に移動する条件,③擦刺激条件は,縦6本の刺激ピンを固定し,機械的制御にて刺激プローブが示指の指腹を左右に移動する条件とした.なお,各刺激介入は,20分間(on / off時間:1秒 / 5秒)実施し,介入前,介入直後,介入5分後,介入10分後,介入15分後,介入20分後に15波形のMEPを記録した.
  • 結果:単純刺激条件では,MEP振幅値の有意な低下が認められた一方,複雑および擦刺激条件では,MEP振幅値の有意な増大が認められた.
  • 結論:機械的触覚刺激により皮質脊髄路の興奮性は変動し,その変動は,触覚刺激方法に依存することが示唆された.

 

担当:大鶴

タイトル:体性感覚情報処理におけるpredictive coding

要旨

  • 目的:体性感覚誘発磁場において記録される成分が,入力される刺激に対する予測(predictive coding)から影響を受ける成分であるかを明らかにすることを目的とした.
  • 方法:対象は健常成人10名とし,刺激条件は,3秒間(long刺激)および1.5秒間(short刺激)持続する2種類のトレイン刺激(100 Hz)を用いた.実験条件は,long刺激が25%,short刺激が75%の確率で呈示される条件(条件1),short刺激が25%,long刺激が75%の確率で呈示される条件(条件2)とした.各条件におけるshort刺激に対する反応を,脳磁場計測装置(MEG)を用いて検討した.
  • 結果:条件2すなわちlong刺激が提示されると予測している条件において,short刺激消失時の皮質活動に有意な振幅増大が認められた.
  • 結論:MEGで記録される体性感覚誘発磁場の少なくとも一部は,predictive codingに基づいた活動であることが示唆された.

 

担当:中村(雅)

タイトル:僧帽筋上部線維の効果的なストレッチング肢位の検討

要旨

  • 目的:僧帽筋上部線維の効果的なストレッチング肢位を明らかにすることを目的とした.
  • 方法:対象は若年男性16名の非利き手の僧帽筋上部線維とした.せん断波エラストグラフィー機能を用い,他動的に頸部を屈曲,側屈,屈曲+側屈,側屈+同側回旋,屈曲+側屈+同側回旋を行う5肢位に,安静状態である頸部正中位を加えた計6肢位の弾性率の測定を行った.
  • 結果:頸部正中位に対する各肢位の比較を行った結果,全ての肢位で有意に高値を示した.また有意差が認められた肢位間での比較では,屈曲に対し,その他の全ての肢位で有意に高値を示したが,その他には有意な差は認められなかった.
  • 結論:肩甲骨の挙上・上方回旋を固定した状態で頸部を屈曲することで僧帽筋上部線維をストレッチング出来るが,屈曲よりも側屈する方が効果的にストレッチングすることが可能であった.また,側屈に屈曲や同側回旋を加えても僧帽筋上部線維をさらに効果的にストレッチング出来ないことが明らかになった.

 

担当:宮口

タイトル:軽負荷反復運動課題におけるPost-exercise depression期間中の短潜時求心性抑制および短間隔皮質内抑制の変化

要旨

  • 目的:本研究は反復運動課題におけるPED期間中の短潜時求心性抑制(SAI)および短間隔皮質内抑制(SICI)の変化を明らかにすることを目的とした.
  • 方法:実験1では,SAIの変化を検討した(被験者12名).実験2では,安静時運動閾値の80%の強度の条件刺激を用いてSICIの変化を検討した(被験者10名).実験3では,運動時運動閾値の80%の強度の条件刺激を用いてSICIの変化を検討した(被験者8名).運動課題は2 Hzの頻度の右示指外転運動とし,最大随意収縮の10 %強度で6分間行った.運動課題前後に経頭蓋磁気刺激を用いて,単発磁気刺激による運動誘発電位(single MEP)およびSAI,SICIを計測した.SAIは磁気刺激の22 ms前に手関節部の右尺骨神経を運動閾値の強度で電気刺激することにより計測した.またSICIの条件刺激と試験刺激の刺激間隔は2 msとした.
  • 結果:全ての実験において運動課題前に比べ運動課題後1-2分におけるsingle MEPの有意な低下が認められた.また実験1では,運動課題後1-2分においてSAIの低下が認められた.実験2および実験3では,運動課題前後のSICIには有意な変化は認められなかった.
  • 結論:本研究によりPED期間中にSICI は変化しないものの,SAIが低下することが明らかになった.

 

担当:齊藤

タイトル:末梢神経への電気刺激と経頭蓋磁気刺激の組み合わせが皮質脊髄路の興奮性変化に及ぼす影響

要旨

  • 目的:末梢電気刺激と対側大脳半球への経頭蓋磁気刺激を組み合わせた1対のペア刺激が皮質脊髄路の興奮性変化に及ぼす影響を検証する.
  • 方法:健常成人11名を対象に末梢電気刺激と経頭蓋磁気刺激のペア刺激を実施し,単発磁気刺激法による運動誘発電位(MEP)の変化を観察した.ペア刺激は右正中神経への電気刺激と対側一次運動野への経頭蓋磁気刺激の組み合わせとし,その刺激間隔(ISI)を25ms,100msの2条件とした.MEP計測はペア刺激前,ペア刺激後5秒,10秒,20秒の実施した.
  • 結果:ISI=25msのペア刺激はMEPを5秒後まで減弱させるが,ISI=100msのペア刺激はMEPを変動させなかった.
  • 結論;末梢電気刺激と経頭蓋磁気刺激のペア刺激の効果はISIに応じて変化する可能性が示唆された.

 

担当:伊藤

タイトル:両脚と片脚の動作課題における膝外反モーメントの違い Drop vertical jump,片脚着地,外方・内方ホップの比較

要旨

  • はじめに:膝前十字靱帯(ACL)損傷はスポーツ活動において発生率の高い外傷のひとつである.バスケットボールやハンドボール,ラグビーなどのスポーツ活動における非接触型ACL損傷は着地動作やカッティング動作で多く受傷する.非接触型ACL損傷の受傷機転について,膝外反位で受傷していることが報告された.また,Drop vertical jump(DVJ)にて膝外反モーメントが大きかった者にACL損傷が発生し,DVJ中の膝外反モーメントと膝外反角度に関連があることが報告された.これらの研究から,スポーツ活動中の膝外反はACL損傷のリスクと考えられ,臨床では膝外反角度の増大をACL損傷のリスクとして捉え動作分析や動作指導を行っている.DVJや片脚着地動作など様々な動作において膝外反角度の評価が行われているが,運動中に生じる膝外反モーメントは明らかになっていない.
  • 目的:臨床で評価する機会の多いDVJ,片脚着地,片脚ホップで生じる膝外反モーメントの大きさについて検討すること.
  • 方法:対象はラグビー選手21名42脚(年齢20.9±2.8歳,身長171.6±4.0cm,体重75.4±7.1kg)とした.動作課題としてDVJ,片脚着地,内方向と外方向への片脚ホップを設定した.片脚ホップは片脚立位から各方向に向けて75cmの距離をジャンプし同側片脚で着地後,静止するよう指示した.動作解析は3次元動作解析装置を用い200Hzにて計測し,1000Hzで計測した床反力計を同期させた.足部接地から500msまでの膝外反角度,膝外反モーメントを算出し,最大値を結果として用いた.算出したモーメントは体重で除し,標準化した.膝外反角度の平均値の差について一元配置分散分析,平均値の差の比較についてBonferroniの方法による多重比較を行った.膝外反モーメントの平均値の差についてKruskal Wallisの検定,平均値の差の比較についてWilcoxonの順位和検定を用いた多重比較を行った.
  • 結果:膝外反角度はDVJ21.4±8.6度,片脚着地17.0±6.4度,内方ホップ18.8±6.7度,外方ホップ16.8度±5.7度であった.DVJの膝外反角度は片脚着地,外方ホップに比べ有意に大きかった(p<0.05).片脚着地と内方ホップ,内方ホップと外方ホップの間にも有意差が認められた(p<0.05).膝外反モーメントはDVJ0.57±0.26Nm/kg,片脚着地-0.03±0.24Nm/kg,内方ホップ-0.17±0.24Nm/kg,外方ホップ0.48±0.36Nm/kgであった.膝外反モーメントについて,DVJは片脚着地,内方ホップに比べ有意に大きく(p<0.05),外方ホップは片脚着地,内方ホップに比べ有意に大きかった(p<0.05).
  • 結論:臨床では動作中に生じる膝外反モーメントに対して過度な膝外反角度の増大が起きないかを評価している.片脚着地と内方ホップは膝外反モーメントが発生し難い動作課題であると考えられる.動作を評価する際には膝外反角度だけでなく膝外反モーメントについても考慮する必要がある.