5/27 勉強会

研究報告

担当:鈴木

研究テーマ:オペラント学習に伴う皮質内抑制機能の相反的な変化

  • 目的:報酬確率を統制した行動学習に伴う一次運動野活動の相反的変化を検証することを目的とした.
  • 方法:10%,50%,90%の報酬確率を用いて手関節屈曲開始合図の0.05秒前および報酬提示の2秒後に経頭蓋磁気刺激を呈示し,橈側手根屈筋(FCR)および橈側手根伸筋(ECR)における運動誘発電位(MEP)振幅の相反的変化を観察した.
  • 結果:手関節屈曲開始直前におけるMEP振幅相対値(FCR/ECR)は,10%報酬確率が90%報酬確率よりも大きかった(P =0.008).一方,報酬提示後におけるMEP振幅は,90%報酬確率が10%(P = 0.001)および50%報酬確率(P =0.001)よりも大きかった.
  • 考察:行動学習課題における報酬確率の変化に伴って,主動筋と拮抗筋に投射するM1興奮性の相反的な変化が観察された.低い報酬確率(10%)では主動筋に投射するM1興奮性増加と拮抗筋の興奮性低下をきたすことが示唆された.一方,高い報酬確率(90%)では主動筋に投射するM1興奮性増加と拮抗筋の興奮性低下をきたすことが示唆された.

担当:桐本

研究テーマ:同側手内筋間および利き手‐非利き手の同名筋間における皮質中継時間の違い

  • 背景:長潜時伸張反射(Long latency reflex: LLR)の生成には,求心路から遠心路への中継に皮質を介した神経経路が関与すると考えられている.この内,求心性上行時間は,体性感覚誘発電位(Somatosensory evoked potentials: SEP)の早期成分N20の潜時に,また,遠心性下行時間は,経頭蓋磁気刺激(Trans cranial magnetic stimulation: TMS)により誘発される運動誘発電位(Motor evoked potentials: MEP)の潜時に相当することから,皮質中継時間(Cortical relay time: CRT)は,LLRの潜時からSEPとMEPの潜時を減じた値により算出される.
  • 目的:短母指外転筋(APB)と第一背側骨間筋(FDI)とでは,CRTに違いがあるのか,及び両側同名筋のCRTには,ラテラリティが存在するか否かを比較検討した.
  • 方法:健常成人被験者16名(右利き10名,左利き6名)を対象とした.最大筋力の約10%を保持する静的筋収縮中に,各筋の支配神経(尺骨神経または正中神経)に対して経皮電気刺激を行い, LLRとSEPを同時に記録した.また,TMSによりMEPを記録した.LLRの潜時(onset)からMEP(onset)とSEP N20(peak)の潜時を差し引き,CRTを算出した.
  • 結果:利き手,非利き手に関わらずAPBのCRT及びLLRの潜時は,FDIのそれらより有意に長かった.また, APBでは,利き手と比較して非利き手のCRT及びLLRの潜時が有意に長かった.各条件においてMEP,SEPの各潜時に有意な差は認められなかった.
  • 考察:本研究で算出したAPBのCRTは,約8-10 msであり,利き手のAPBを対象として過去に行われたいくつかの研究と同程度の値であった.本研究結果により,APBのCRTにはラテラリティが存在すること,また利き手か非利き手かに関わらず,FDIのCRTはAPBより短いことが明らかになった.同側手内筋間および利き手‐非利き手の同名筋間におけるCRTの違いには,それぞれの筋において,一定の筋力を保持する課題遂行時に機能する感覚運動連関系の神経経路のシナプス数が関与しているのではないかと推察した.

担当:宮口

研究テーマ:手指運動課題動作の違いが皮質脊髄路興奮性に与える影響

  • 目的:手指運動課題の違いが皮質脊髄路興奮性に与える影響を明らかにすること.
  • 方法:運動課題3条件(右示指タッピング運動,右示指内外転運動,右母指対立運動)をそれぞれ2Hzの頻度にて2分間行い,運動課題前および運動課題直後に磁気刺激を用いて右第一背側骨間筋より運動誘発電位を計測した.各課題は15分以上の間隔を空け,ランダムな順序で行った.
  • 結果:示指内外転運動条件において,課題前にくらべ課題直後のMEP振幅が有意に減少した(p<0.01).示指タッピング運動条件,母指対立運動条件では,課題前後のMEP振幅に有意な変化は認められなかった.各運動課題で得られた筋活動の値は,示指タッピング運動条件および母指対立運動条件に比べ,示指内外転運動条件において有意に高い値を示した(p<0.05).
  • 考察:示指内外転運動条件においては,先行研究と同様にpost exercise depressionが観察されたものと考えられる.示指タッピング運動条件,母指対立運動条件において課題前後のMEP振幅の値に変化が認められなかったことから,PEDは運動課題および標的筋の収縮強度に依存することが示唆された.